表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/102

桜島はまだ穏やか

 ハヤトーレ鹿児島は、昨シーズンのJFLで優勝。J2の最下位だった横須賀FCと入れ替わってJリーグに参入した。

 創立はまだ年号が昭和だった1986年と歴史がある。鹿児島サッカー界の中核と言える薩摩実業高校の監督だった故宮岡達雄氏が「薩実を巣立った子供達がサッカーを続ける環境を」と、主に高校卒業後でサッカーを辞めたOBの受け皿として「薩実OBクラブ」として始まった。Jリーグが開幕したころから、チームを母体としたプロクラブ立ち上げの話が起こり、紆余曲折をへて5年前にJFL昇格。年々順位を上げて昨シーズン大輪の花を咲かせた。「遅すぎた」と言う声も聞かれた通り、その実力は確かでここまでの20試合は10勝6敗4分と健闘。千葉や尾道から白星を上げるなど侮れない戦いぶりを見せている。





「一昨日のミーティングで映像を見せたように、実に規律の整った組織的なサッカーをしている。これを崩すのは少々骨が折れそうだ」

 試合前のミーティング、自軍のロッカールームでバドマン監督は最後のミーティングをしていた。

「戦い方は常に基本に忠実。ありきたりな印象もあるが隙もない。今日の諸君には、少々骨を折ってもらうことになるだろう」

 バドマン監督の言葉に、内村が吹き出した。

「いやいやいや。骨折ってもらうとか言って。別にそんな必要ないでしょ。わざわざ訳のわからない連中をスタメンにしておいて。なあ、友成よ」

「…否定しませんけど、あんまり剣崎とは一緒くたにされたくはないっすね」

 憮然としながらも、友成もバドマンに対して「んなこた分かってる」という顔をしている。


スタメン


GK20友成哲也

DF11佐久間翔

DF4江川樹

DF3内村宏一

DF14関原慶治

MF8栗栖将人

MF2猪口太一

MF16竹内俊也

MF7桐嶋和也

FW9剣崎龍一

FW18鶴岡智之


リザーブ


GK40吉岡聡志

DF5大森優作

DF23沼井琢磨

MF35毛利新太郎

FW36矢神真也




 スタメンの面子を改めてみると、攻撃的と言うよりも攻撃に特化、もっと言えば守備放棄とも言えそうな布陣だった。確かにこれでは、まともな戦いをしないということがどう考えてもわかるだろう。

「監督。ようは、友成がシュートを全部止めて、俺がハットトリックすりゃあいいってこったろ?だったら、ベンチにでーんと座ってゆっくりしといてくれよ。俺達は『やる』男たちだぜ」

 自信満々の剣崎の笑みに、バドマン監督も笑い返した。


「では諸君。今日は悪になろう。この鴨池陸上競技場のサポーターを黙らせたまえ」






 スタジアムの客入りははっきりしていた。ホームの鹿児島サポーターは、メインスタンドやバックスタンド、ゴール裏席に至るまで大勢詰めかけ、チームからである赤紫色に染めている。対して和歌山サポーターはアウェーゴール裏席に50人いるかいないか。ガラガラの長椅子を横断幕で埋め尽くしていた。


「何人ぐらいいるんだ?一万いるのか?」

 ピッチに整列した時、剣崎はスタンドを見渡してつぶやく。隣に立つ桐嶋は、ため息をついて答えた。

「八千いくかどうかだってさ。首位が相手だってのに、神戸や大阪より少ないんだと」

「…後悔させてやっか」

「その意気だぜ、エース様よ」



 キックオフのホイッスルがスタジアムに響く。試合前からチャントを唄っていた鹿児島サポーターのテンションがさらに上がり、ハヤトーレの選手たちを後押しした。


ハヤトーレ鹿児島スタメン


GK1阿部幸一

DF4江住昭典

DF2イ・ソンナム

DF6梶原匠

MF10小泉純

MF20戸田秀樹

MF31前原孝行

MF8久保原淳司

MF13鈴岡光俊

FW9城島健次郎

FW28フラビオ


 基本布陣は3−5−2。3バックとダブルボランチが自陣のバイタルエリアを完全にケアし、イタリア帰りの薩実OB前原が司令塔となってパスを散らす。スピードに長ける城島と高くて強いフラビオの2トップが得点源として他クラブの脅威となっている。


 序盤、鹿児島は力技で攻めてきた。2トップは互いに190センチ近く(城島188、フラビオ187)もある。前原を起点に両サイドからクロスを打ち上げ、二人の高さを使ってきた。今日の和歌山の最終ラインには180センチの選手が一人もいないので、妥当な攻撃と言える。


「ちっ。確かに、教科書通りだっなっ!」

 開始早々、城島がヘディングシュートを打ってくる。だが、普段から高さ勝負に持ち前のバネと反射神経でカバーしてきた友成は、これを平然と防ぐ。

「やるなちっさいの。そいじゃあ、これならどうだっ!」

 再三のヘディングを止められた城島は、今度は左足のボレーを打つ。ただ友成は、これも冷静にキャッチした。

「低けりゃ問題ないんだよ」

 ボールを抱えながら、友成は不敵な笑みを浮かべた。




「ほっほ。なかなかやりおるわい。あれだけ小柄でリーグNo.1GKの呼び声高いのも頷けるの」

 Jクラブ最高齢監督、ハヤトーレ鹿児島の大久保隆盛監督は、友成のプレーに感嘆とした。

「しかし城島は、その程度では折れはせんよ。どこまでわしらの攻撃に、あの脆弱な最終ラインでどこまで耐えられるかの」



 一方で和歌山の反撃は、もう一つ決め手に欠いた。鹿児島と同じように、両サイドの桐嶋、竹内が駆け上がってゴール前にクロスを放り込む。相手が3バックである分サイドにスペースはあったが、剣崎や鶴岡の周りには鹿児島のDFがうろつき、クロスを入れさせなかった。

「くっそう、なんかしっくりいかねえなあ。トシもカズもいいボールくれんのによ…」

「ぼやくな剣崎、チャンスは必ず来る。俺達が気持ちを折らなきゃな」

「鶴さん。まあそうなんすけどね。にしても、こいつらうっとうしいぜ」

 忌ま忌ましげに、剣崎は鹿児島の守備陣を睨む。

(…ちったあ敬語使えよ)

 剣崎の態度に、センターバックの江住はいらついた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ