選手たちのPR
今回はかなりの短編です。
「明日は奈良とのダービーでぇすっ!」
「是非来てください、お待ちしています!」
試合前日の朝。JR和歌山駅のバスターミナル付近で、剣崎や西谷がユニフォーム姿でチラシを配っていた。竹内は通学前の女子高生に囲まれながら、鶴岡は遠足と思われる幼稚園児の集団に肩車をせがまれていた。矢神はやや恥ずかしそうにチラシを配る。
ダービーマッチに少しでも多くの県民に来てもらおうと、選手たちが各ポジションごとにわかれて各地でビラを配っていた。FWはJR和歌山駅、MFは同岩出駅と紀の川市役所前。DFは海南駅、GKと首脳陣は南海和歌山市駅にて配っていた。
一番盛り上がっていたのはやはり和歌山駅。FWというポジションはゴールに絡みやすく、イコールニュースで取り上げられやすいシーンに顔を出すのでみんなピンときやすいようだ。通学途中の学生や出勤するサラリーマンはもちろん、主婦やお年寄りからも「がんばんなあよ」なんて声をよくかけられていた。
そうした盛況もあり、FW組が一番先に配り終わり、余った時間で即興のサイン会や撮影会も行われ、チラシ配りは大成功に終わった。
「いやあ面白かったぜ。俺達って結構人気あったんだなあ」
クラブハウスに戻り、午後からの練習が始まる前に、剣崎は余韻に浸っていた。
「お前ら結構すいすいと配り終えたらしいな。こっちはサイン会開くまでは行かなかったよ。川久保さんが怖くて子供泣いちゃうんだよね」
「大森…、ばらさなくていいだろ」
「俺達キーパーもちょっと寂しかったなあ。友成と監督ばっかに人集まって、俺なんか係員なんて思われてたし」
「はっ。何言ってんすか吉岡さん。主婦にモテモテだったでしょ」
剣崎だけでなく、選手たちが街中での触れ合いで何かを感じていた。
実はこのチラシ配りは、バドマン監督の発案だった。ダービーを前に緊張感の高ぶりをほぐすためだ。緊張感が高まることは悪くはないのだが、リミットを超えてしまうと悪影響に繋がりかねないのだ。そしてもう一つの理由が、サポーター以外の声援を感じてもらうためだ。
「我々を応援するのはサポーターだけとは限らない。それを実感することは必ず力になる」
それがバドマン監督の意図であり、選手には想像以上のプラスに働いたようだった。
「奈良対策の練習をするより、このチラシ配りの方が何倍も力になる」
バドマン監督はそう言って笑った。




