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喧騒の後…

今回はやたら台詞が多いです。

「放送席、放送席。そしてスタジアムの和歌山サポーターの皆さん、お待たせしました。今日のヒーローはもちろんこの人、見事ハットトリック!背番号9番FW、剣崎龍一選手です」

「あぁざぁすっ!!!」


 試合終了後のヒーローインタビュー。お立ち台に立った剣崎は、女性アナウンサーからマイクを向けられると、ガッツポーズを作って絶叫した。

「開幕戦以来のゴールから一気にハットトリックを決めました。今のお気持ちはいかがでしょうか」

「いやあ、お立ち台ってのはほんま眺めいいっすねえ。まあ開幕戦からね、ずっとゴール決めれなんでチームにもサポーターにもすっごい迷惑かけたんで、これでちょっとは許してくれへんかなって、思ってます」

 その言葉に、ホームのゴール裏から「許す、許す」という声が聞こえてきた。

「前半の1点目、後半の2点目、ともにリードを許した後のゴールでした。気迫がこもったすばらしいゴールでした」

「そうっすね。前半はね、俊也が俺を信じてつないでくれたし、後半のやつも敦志がね、自分のできる最高のプレーをして俺にクロスあげてくれたんでね。これは決めなあかんと思って、思い切って行きました。あとね、向こうの9番の荒川さんが点取ったんでね。同じ9番つけてるね、俺が取らんわけにはいかんでしょ」

 剣崎の自負。それは相手のエースよりも点を取ること。口にした思いはサポーターの心をつかむには十分すぎた。

「そしてとどめの3点目。非常にきれいなシュートでした」

「そうっすね。やっぱ今年は去年あんだけ点取ったんで、マークもきつくなるんで、くるチャンスは全部決めな駄目やと、思ってるんで、ずっと練習してて、それができてよかったです」

「それでは、和歌山の勝利、そしてJ1昇格を願うスタジアム、そしてテレビの前のサポーターにメッセージをお願いします」

「えー今日はほんまに最後まで応援ありがとうございました。まだまだ俺は点を取るし、チームもどんどん勝ちますし、絶対昇格しますんで、俺たちに力くれる応援、これからもずっと、お願いします!あざぁしたぁっ!!!」



 ヒーローインタビューを終えて剣崎がゴール裏のサポーターの元へ駆け付けている頃、競技場内では監督会見が行われていて、アウェー尾道の水沢監督が敗将の弁を述べていた。

「今日の試合に関しては、ただ剣崎が凄かった。まずはそれに尽きます。しかし、失点した時間帯はこれまで同様我々が取ってから10分前後。こういうところを日常的に抑えられるようにならないと、まだまだ昇格争いには絡みきれません」

 試合について水沢監督は、相手を讃えつつもチームの課題を淡々と振り返った。続いて記者から「アクシデントで出場した野口が得点しましたが」との質問に、こちらは笑みを見せつつ答えた。

「それが今日の試合で唯一収穫と言える結果ですね。確かに開幕から5試合負けてないですけど、FWで得点していたのが荒川とシュヴァルツだけだったので、彼の得点は今後に繋がると思います。FWというのは1点とるとそれを重ねられますからね」






「おつかれさん。ユニフォームどうした」

「あらどうも。へへ、サポーターんとこ投げ入れてきたっす」

 サポーターと勝利の喜びを分かち合って引き上げてきた剣崎を出迎えたのは、着替え終えた荒川だった。手を差し出され、剣崎は握手を交わす。

「なんすか?選手が直々に引き抜き交渉っすか」

「なわけねえだろ。今日はちょっと個人的に話がしたくてな。…お前、なかなか味なこと言うな。『相手の9番がとったら俺も取る』ってよ」

「はっ。当たり前じゃないっすか。エースは相手より点とるのが仕事でしょ」

 いくつか談笑を交わした後、荒川は表情を引き締めて本題に入った。

「お前、海外行く気ないって、去年言ったよな。あれは今も変わってないか」

 この問い掛けに、剣崎の表情が変わる。半ば切れ気味に答える。

「言ったし、今どころかあの世に言っても変わんないっすね」


「なんでだ。なんでそこまで海外移籍を嫌う。俺は今までいろんな国に渡ったけどな、お前クラスの選手はヨーロッパにも南米にもいなかった。自分の力を海外で試したいって気はないのか」

「別にないっすね。俺の興味は和歌山をJ1で戦わせることと、Jリーグで300ゴール決めることだから」

 あっさりと即答し、さらには目標も口にした剣崎。さらに剣崎は自分の価値観を荒川にぶつけた。

「自分の力試しとか成長とかで海外行きたがるやつがいるけど、俺は海外移籍こそ無駄だと思ってるっすよ。言葉通じないし食文化違うし、サッカー以外の余計なことに足引っ張られるんで。それにJリーグだってもう20年続いてんだし、わざわざ外にでなくても伸びようはあるはずでしょ。『成長したい』って海外行くやつは俺から言わせりゃ逃げでしかないし」

「…なら、海外からオファーが来たときはどうするんだ?」

 これにも剣崎ははっきりと言い切った。

「即答で断るっすね。日本だけで、一つのクラブで人生まっとうするのが、俺のポリシーなんでね。俺がこのユニフォーム脱ぐときは、クビになるか死ぬときか、そのどっちかですよ」

 剣崎の表情に、荒川はこれ以上話しても無駄だと悟った。

「お前の考えはよくわかった。お前なりの道を行けばいいさ。もし海外に興味あるなら、いい代理人の口を利いてやってもいいかと思ったんだがな」

 半ば呆れ気味につぶやく荒川。ただ、その表情に嫌みはない。

「ただ、これだけの活躍をしてるんだ。間違いなく2、3年しないうちに代表に呼ばれる日は来る。なにせ、日本にはいない生粋のストライカーだからな」

「へへ。まあ、呼ばれたら代表のユニフォームぐらい着たいっすね。荒川さんなら俺呼びますか」

「いや、呼ばない。お前はまだまだ基本ができてないからな」

 意地悪な笑みを見せて荒川は答える。それには「ちぇっ。言ってることと違うじゃん」と膨れっ面を返した。

「それじゃ俺は失礼するわ。あと、俺のことはヒデでいい。得点王とっちまいな。俺が邪魔するけどな」

「無理しない方がいいっすよ。ロートルに俺の相手はきついから」

「はは、こいつ」






 二人の背番号9が絆を強めていた頃、バドマン監督も記者会見をしていた。


「前半は相手主導の中で追いつき、後半はイニシアチブをとりながら勝ち越された。どうやらこのクラブは、勝ち点を増やす反撃のエネルギーは図りしれないが、まだまだポゼッションしているときのゲームコントロールに課題を残している。それが明確化された上で勝てたのだから、これ以上望むものはないですよ」

 厳しい一言をつけはしたが、その顔は終始上機嫌だった。

「剣崎はやはり、世界でもトップレベルのストライカーだ。彼という最高の宝物を手にして采配を震えるのだから、これに勝る監督生活はそうはでしょう。連勝はいつかは途切れますが、それはまだまだ先の話かも知れません」


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