ストップ・ザ・アガーラ
「ストップ・ザ・アガーラ、ねえ…」
3月も最後の1週間となった29日。広島県尾道市のジェミルダート尾道のクラブハウスで、エースストライカーの荒川秀吉は、ロビーに置かれた新聞の中からJリーグ専門新聞Jペーパーを手にとり、つぶやいた。
「何見てるんですかヒデさん」
ソファーの後ろから成長株のMF御野輝が声をかけてきた。ルーキーのFW竹田大和もいる。
「それ、今週号っすか」
「ああ。今朝の朝刊と一緒に来てた。J2のメインイベントはうちと和歌山だと」
そういって荒川は竹田に新聞を渡した。
「にしても、和歌山パネエっすね。まさか開幕5連勝なんて」
「去年と面子の変化は少ないけど、ハマったときの爆発力はすごいですから。アウェーで当たってうちが勝った後は終盤のリーグ戦9勝1分けで3位まで上がりましたからね」
「すげえな…」
御野の説明を受けて、竹田は顔を引きつらせる。
「でもあっちは全勝だけどよ、俺達も無敗だぜ。変にビビることもないぜ 」
自信満々に語るのは、今や新守護神が板についてきたGK宇佐野竜。去年の和歌山戦では好セーブ連発で勝利に貢献した。尾道の中では最も和歌山に自信を持っていると言っていい。
「いい表情だなウサ。結構なことだが…」
笑顔で声をかけた荒川は、そこで表情を変えた。
「去年も俺達はいい状態で当たって5点も取られて負けたんだ。しかも向こうはコロコロとスタメンをいじって全勝してるんだぞ。あくまでも挑戦者のつもりでいけよ」
「う、ウスッ」
昨年2戦4ゴールとキラーの数字を残している荒川に言われては、宇佐野も頷くだけだった。
開幕から間もなく1ヶ月。その最後の第6節を前に、今年のJ2は群雄割拠の様相を呈してきた。昇格筆頭候補と目されたガリバー大阪、「今年こそは…」と言われながら新体制発足が年明けまでずれ込んだジェク千葉は案の定苦戦を強いられ、対して開幕から全勝を続けるアガーラ和歌山を筆頭に、尾道、松本といったいわゆる地方クラブの奮闘が光っていた。その話題の中心である和歌山と尾道が対戦するとあって、世間(主にJリーグファン)の耳目を集めていた。
ただ快進撃の当事者の心中は様々だ。特に尾道の水沢威志監督は、大阪、神戸相手に引き分けたあと3連勝のチームの現状に、むしろ危機感を募らせていた。今号の紙面に置いても「無敗が続くのはいいこと」と前置きした上でこう語っている。
「開幕戦のガリバー戦、ホーム開幕の神戸戦、この2つの引き分けは『追いつかれた』もので勝てた試合でもあった。この3連勝も得点した後や試合終了間際に余計な失点もある。もっと勝負所での集中力を高めていかないと。今年は明らかにJ2レベルでないチームがたくさんあるので、取れる勝ち点を確実にものにしないとプレーオフも厳しくなる」と。
そのころ、アガーラ和歌山のエース剣崎は自主練でシュートを打っていた。いや、ここ最近は「蹴っている」と言うより「転がしている」と言った方がしっくりくる。いつものように豪快なシュートを打つことはほとんど見られない。
「最近弱いシュートばっかりだな」
傍らでストレッチをしている栗栖が冷やかす。だが剣崎は真剣な表情でボールを押し込んでいた。
「まあ、意図はわからんでもないよ。徹底して押し込むことに重点を置いてるな。やっぱそろそろ開幕戦以来のゴールがほしいからねえ」
「それもあるけどよ。今年の俺はもっとコンタクトに点をとらねえといけねえ立場だ。得点パターン増やさねえとな」
「コンスタントって言いたいんだろ。まあ、そうでないと困るけどね」
「今シーズンはやっぱ『らしくない』ゴールも増やしていかねえとな。マークがきつくなってっから、ますますそう思うわ」
こいつなりに考えてんだなと、栗栖は感心していた。
さて、試合当日。3月全勝が掛かっているとあって、紀三井寺陸上競技場はかなりの来場者が集まった。ホームゴール裏はすぐに埋まり、入れなかったサポーターもバックスタンドに次々と入場。アウェーの尾道も観光バス3台を含めて300人以上のサポーターが駆け付け、7千人越えは確実だった。
「まずはアウェーチーム、ジェミルダート尾道のスターティングメンバーならびにリザーブのご紹介です」
試合開始20分前、いよいよスタメン発表となり、まずは尾道サポーターの熱気が高まる。選手名がコールされる度に尾道のゴール裏が合いの手を入れるが、「背番号9、FW、荒川秀吉」とコールされると和歌山側から大ブーイングが飛び、リザーブメンバーに去年の仲間である朴康信がコールされると拍手が起きた。
そして、尾道サポーターの景気づけのチャントを掻き消すように、スタジアムにファイナルカウントダウンが流れ、DJが叫んだ。
「さあ〜っアガーラサポーターのみんなあっ!大変お待たせしましたっ!続いては、アガーラ和歌山、本日のっスターティングメンバー、ご紹介しましょうっ!!」
「神セーブ連発、世紀の守護神っ!背番号、20。ゴールキーパーっ、友成っ哲也っ!」
『(ドンドンドン)とーもなりぃっ×4』
「勝ち点3まで、フルタイムフルスロットルっ!背番号、21。ディフェンダー、長山っ集太!」
『(ドンドンドン)ながやまあっ!×4』
「港町発、琵琶湖経由のパワフルストッパー!背番号、23。ディフェンダー、沼井っ琢磨!」
『(ドンドンドン)ぬまたくうっ!×4』
「成長止まない、紀州のヘラクレスっ!背番号、5。ディフェンダー、大森っ優作!」
『(ドンドンドン)おーもりぃっ!×4』
「ドリブルの切れ味は、まさに名刀!背番号7。ディフェンダー、桐嶋っ和也っ!」
『(ドンドンドン)かずやぁっ!×4』
「攻守に躍動する、小さな大黒柱っ!背番号、2。ミッドフィルダー、猪口っ太一!」
『(ドンドンドン)たいちぃっ!×4』
「イレブン鼓舞する、ピッチの闘将!背番号、17。ミッドフィルダー、チョンっスンっファーンっ!」
『(ドドッドドンドン)ちょーんすんふぁんっ!×4』
「ジパングさすらう、昇格請負人!背番号、31。ミッドフィルダー、マルコスっソウザっ!」
『(ドンドンドドドン)まるこすそうざあー!×4』
「正確無比にパスを放つ、レフティースナイパーっ!背番号、8。ミッドフィルダー、栗栖っ将人!」
『(ドンドンドン)くりすぅっ!×4』
「ピッチを吹き抜ける、一陣の風!背番号、16。フォワード、竹内っ俊也!」
『(ドンドンドン)としやあっ!!×4』
「欲するのはゴールのみっ!人類無双のストライカーっ!背番号、9。フォワード、剣崎っ龍一!」
『(ドンドンドン)りゅういちぃっ!!×4』
長くなるので、ここで両チームのスタメンを整頓する。
ホーム:アガーラ和歌山
GK20友成哲也
DF21長山集太
DF23沼井琢磨
DF5大森優作
DF7桐嶋和也
MF2猪口太一
MF17チョン・スンファン
MF31マルコス・ソウザ
MF8栗栖将人
FW16竹内俊也
FW9剣崎龍一
アウェー:ジェミルダート尾道
GK20宇佐野竜
DF26深田光平
DF4モンテーロ
DF5港滋光
DF2マルコス・イデ
MF17亀井智広
MF6山田哲三
MF7桂城矢太郎
MF8御野輝
FW9荒川秀吉
FW11シュヴァルツ
沼田政信氏の幻のストライカーX爆誕からチームを借りました。次回からちょっと長くなります。




