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思うがままに

「諸君!素晴らしい前半だった」

 ハーフタイム。ロッカールームに選手たちが戻ってくるなり、バドマン監督は両手を広げて讃えた。

「富山には十分すぎるダメージを与えることができた。後半はよりアグレッシブに戦うことができるだろう。センターバックの二人もすきあらばどんどん攻め上がりたまえ」

「おいおい、守備ほったらかしでいいってのかい」

 あえて膨れっ面をする友成だが、バドマン監督は笑みを浮かべて声をかけた。

「その心配はない。センターバックに攻め上がりを指示できるのも、君が守護神だからだ。富山のFWは元日本代表だが、前半を見る限り君の敵ではないよ。後半も格の違いをしっかりと見せてきなさい」

「おだてかよ…。悪い気はしねえが。最終ラインの皆さんよ、攻めんのは監督命令だから構わねえけど、完封ポカにする真似はすんなよ」

 一方で5本のシュートを放ちながらノーゴールに終わった挙句、狙っていた初ゴールも決められなかった剣崎は、ベンチに腰掛けたままタオルを頭からかぶり無言で座り込んでいた。

(くっそー…せっかく勝ってんのになんか流れに乗れてねえなあ…。せめて点とって終わりてえなあ)

「剣崎ぃっ!!」

「どふぇっ!」

 突然真上から両肩を押さえ付けられ、剣崎はらしくない反応を見せ、ロッカールームは爆笑に包まれた。

「はっはあーどうしたんだい?随分と気張ってるじゃないか、いつものうっとうしいぐらいの雄叫びはどうしたんだい?」

 驚かせたのはバドマン監督だった。指揮官のいたずらに、さすがの剣崎も憮然とする。

「…やけに楽しそうじゃねぇっすか。俺は今真剣なんすよ、後半きっちり点とらねえとすっきりしねえから」

「その通りだ」

「え?」

 呆気に取られる剣崎の肩を叩きながら、バドマン監督は続ける。

「このままのスコアで終えたとしても、我々は素晴らしいスタートを切ることができるだろう。だが、それをより完璧に近づけるには君のゴールが欠かせないのだ。後半、君には2ゴールを上げてもらいたい。それで私の計画は完成だ」

「2点か…。うしっ!一丁やってやんぜ監督」

「うむ。期待しているよ」


 そしてバドマン監督は、あえて選手たちに言った。

「今彼につげたように、この試合をこのまま終わるのは少々物足りない。エースストライカーである彼がゴールをとってこそ最高の勝利となる。だから彼のためにチャンスを作ってもらいたい。それでゴールレスとなったなら、彼だけの責任だから気にすることはない」

 お膳立てを指示しているようで、暗に剣崎にプレッシャーをかけた。

(つまり点がとれなきゃお前はいらないってな。まあ、そんぐらいのリスクも背負えないようじゃエースじゃねえしな)

 剣崎はにやりと笑っていた。




 後半開始。富山のキックオフだったが、モチベーションの差は明らかだった。バドマン監督の予想通り、富山に与えたダメージは心身ともに大きく、阿間監督はハーフタイム中に対策を指示したが、とても十数分で立ち直れる状態ではなかった。開始早々、猪口が富山のボールホルダーにタックルをかまして、あっさりとボールを奪った。

 ここで光ったのは竹内だった。

「剣崎がエース…、まあ文句はないけど、あいつばっかりじゃないんだよ、うちは」

 猪口からパスを受けると、得意のドリブルを披露。止めに来た相手DFを華麗にかわしながらゴールに迫った。

「お膳立てするにしても、自分の持ち味を見せつけないとなっ」

 いよいよキーパーと1対1の場面まで持ち込んだ竹内。ふと、視界に剣崎が入った。

「いいポジショニング。さすがだ」

 一瞬のアイコンタクトをかわして、竹内は飛び出してきたキーパーの逆方向にパスを出す。剣崎はダイレクトでゴールに流し込んだ。


「ナイス俊也っ!ありがとよ」

「どういたしまして。はは」

 完璧なまでのオープンプレーでのコンビネーション。二人はハイタッチの後に抱き合った。

「剣崎もっと感謝しとけよ。ごっつぁんゴールなんだからよ」

「俊也のおかげでの追加点だ。おいしいとこだけ決めてずりぃぞ」

 剣崎の元に祝福に駆け付けた栗栖や猪口が、笑いながらからかった。

 ただ、誰もが剣崎の冷静さに、内心成長を実感していた。去年までならば、あのイージーボールを豪快に蹴りをぶっ放す、悪くいえばむやみに力んで外してしまうことが多々あったが、今はスムーズな流れに乗って軽くアウトサイドで押し込んだ。

「ようし、もう一点とらしてくれよ。今年の俺は決めれる点は確実にとるってことを見せてやるぜ!」


 後半が10分もしないうちに3点目を追加した和歌山。ここでバドマン監督は動いた。

「さて、残り30分と少し。今なら採点の対象となるプレー時間があるな。松本コーチ。西谷と、沼井を呼んでくれ」

「同時にですか」

「ああ。竹内と園川と交代だ。二人は私が最後までスタメンかどうかを迷ったからねえ。あと、長山も用意を急がせてほしい。小西の運動量が落ちはじめたら行かせるからね」




 交代はすぐに認められ、竹内と園川が戻ってきた。それぞれタッチやハグを交わす。

「アツ、ひとつ仕事してこいよ」

「たりめーだ。これ以上お前や剣崎ばかり目立たせてたまるかよ」

「おうタク、デビュー戦だな。リードしてるから気楽に行け」

「ウスッ、行ってきますっ!」


 交代で入った西谷と沼井は、バドマン監督の迷いを裏付けるように高いパフォーマンスを披露する。サッカーにおいて3点のリードを有することは、野球で言うなら10点差に近い。しかも野球と違って一度に複数点が入ることもない。自然、チーム内の緊張感が弛緩しやすい。だが、この二人が次節のスタメンを奪わんとモチベーションを高くしてプレーしているために、再びチームが引き締まった。こうなると、富山にはもう付け入る隙がない。

「俺もドリブル得意だけどよ、俊也とは一味違うってこと、教えてやるよ」

 西谷はボールを受けると、敵陣でドリブルを仕掛け始めた。

 西谷のドリブルは竹内のそれと比較すると、キレやスピードという速さの部分で劣るが、相手DFからいくら削られても推進力を落とさない力強さと、ボールを失わないキープ力がある。次々と選手が止めにかかってくるが、西谷はそれをものともせずにゴール前までボールを運んできた。

 そのそばに、剣崎もつれて。

「ちっ!天性ってやつか、ゴールのチャンスが用意されるってのは」

 舌打ちしながら、西谷はフリーの剣崎にボールをパスする。またも剣崎は至って冷静にキーパーの逆を突いてネットを揺らした。これで4-0.初ゴールを奪えなかった剣崎だが、後半だけで2点を奪って溜飲を下げた。

 ただ、これだけの得点差がありながら富山の戦意はむしろ盛り返してきた。特に2トップの黒田と桶口は、元日本代表としてのメンツもあり、果敢にゴールに迫ってくる。それを冷静に対応したのが、新しく最終ラインに組み込まれた沼井だった。

「大森、黒田さんに当たれ。10番(桶口)は俺がマークにつくから、小西さんはフォロー頼む」

 広い視野で的確な指示を出し、競り合いも当たり負けしない。日本代表のセンターバックである長沢、楠原、松野らの背中を見て育ってきただけに、素質の高さを見せている。

「ほう。途中からリードしてる状況で入ってきて、結構いいプレーするじゃねえか。頼もしいね」

 最後尾から見守る友成も、沼井の技術の高さにはうなった。


 試合はそのまま終了。昨年2戦2敗の富山から、紀三井寺陸上競技場のこけら落としを祝う完勝を飾った。

視点が定まっていないな・・・。誰目線かわからない。

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