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開幕戦、それぞれの熱

 2013年3月3日。桃の節句、いわゆるひな祭りの日に今シーズンのJ2の幕が開いた。22チームの2回戦総当たり 、計42試合が11月半ばまで中断なしで行われる。G大阪、神戸、札幌の降格3クラブに加え、京都、千葉、東京V、山形、福岡とJ1経験クラブが多数混じった今年のJ2は「史上最も苦しいリーグ」となっている。デンマーク人のヘンドリック・バドマン新監督を迎え、そんな1年をリーグ優勝とJ1昇格の二兎を追う新制アガーラ和歌山は、国体に備えた改修工事を終えた県営紀三井寺陸上競技場にてライプス富山を迎え撃つ。


「さあ皆さんっ!ついにこの日がやってきましたぁっ!!」

 アガーラ和歌山のゴール裏芝生席。その中央で、サポーターグループのコールリーダー・ケンジが、トラメガを片手に叫び、集まったサポーターも呼応する。

「今シーズン、あがらのアガーラ和歌山は、史上最も苦しいJ2を、優勝してJ1への切符を勝ち取ることを目標に戦いますっ!それを成し遂げるためにも、俺達サポーターの声援も欠かせませんっ!」

 ひとつ間をおいて、サポーターを見渡した後、ケンジは力を込めて叫んだ。

「今シーズンから、この紀三井寺には立派な照明がつき、よそのスタジアムを借りる必要がなくなりました。今シーズン以降、よほどのことがない限り、アガーラ和歌山は紀三井寺で戦えますっ!俺達も戦えますっ!生まれ変わった紀三井寺に、開幕戦勝利を捧げるためにも、まずは今日、命を懸けて、ピッチの選手たちにパワーをおくりましょぉうっ!!」

 言い終わると、集まった仲間たちから喝采が湧いた。そしてリズムキーパーのドラムが鳴り響き、手拍子をしながら「和ー歌山っ!!」と連呼した。


 一方のバドマン監督も、この試合については命を懸けていると言ってはばからない。数日前の囲み取材で、その意気込みを語った。

「今シーズン、我々は端から見れば無謀な目標を立てて挑もうとしています。だから開幕の富山戦は絶対に勝つ必要があります。去年勝つことができなかった相手から勝ち点3を、こけらおとしの試合で奪う。これほど勢いづくシチュエーションはありません」

 常に笑顔で取材に応じ、時にジョークを交える陽気な指揮官は、この日は表情を強張らせたまま、力を込めて語り続けた。

「故に、開幕戦は決勝戦のつもりで全力を尽くしたいと思います。富山さんには申し訳ないが、我々の大願のために、成すための勢いをつける踏み台にさせて頂こうと、そう決意しております」



 そして、当の選手たちも気持ちが高ぶっていた。特に剣崎、友成らユース出身者は1年待たされた紀三井寺の初陣の日を迎えられた喜びと、その試合を勝利で飾ろうという気合いに満ちていた。

「ぃゆうしっ!いっちょうやってやるぜっ。俺のゴールで派手に勝ってやるぜっ」

 エースに指名された剣崎が雄叫びを上げると、

「絶対ゴールは割らせない。狙うは完封だ」

 守護神として監督の期待を受けた友成も、珍しく気合いを入れていた。

「気合い入ってるねえ、若い奴らは」

「それだけこいつらにとっては、ここが特別だってこったろ。俺達も負けらんないね」

「デビュー戦って大事だしな。大卒の意地って奴を見せましょうかね」

 ルーキーの関原、久岡も刺激を受けていた。


 スタジアムには、リニューアルオープンということもあってホームのゴール裏は満杯。アウェーの富山サポーターも、遠路はるばる50人ほどが駆け付けた。そしてバックスタンド、メインスタンド共にそこそこの入場者。合わせて6千人弱が来場した。


「うーん…今ひとつですね。リニューアルオープンだからもう少し入ると思ったんですがねえ」

 この状況に渋い顔だったのは竹下社長だった。

「ま、サッカーの僻地っすからね。俺はむしろこんなもんだと思いましたけど、5千人超えただけまだましでしょ」

 対して冷めた反応を見せているのは今石GMだ。

「今日は知事も始球式に来られるのに…。もう少し宣伝すべきでしたかねえ」

「いいんすよ、最初はこんなもんで。勝てば人は来ますよ。勝てばね。ところで、知事はまだっすかね」

 今石GMが竹下社長に尋ねたのと、三好広報が来賓室をノックしたタイミングがほぼ同じだった。

 スタジアムの正面入口前に黒いハイヤーが止まり、後部席から井坂芳和和歌山県知事が降りた。竹下社長は平身低頭で知事と握手を交わした。

「お忙しい中、ご足労頂きありがとうございます」

「いやいや、わざわざご苦労様です。最後まで観戦はできませんが、私もいられる限りは応援してますよ」

 対して井坂知事も笑みを返す。ただ、なんというか営業スマイルの感が否めない。応援に来たというよりは、行事をこなしにきたという雰囲気だった。そんな知事の後ろ姿を見て、今石GMはぼやいた。

「まだまだ行政のほうは無関心くさいな。J1に上がるためにも、もっと役所の人間に関心持たさねえとな」

 隣で三好広報も頷く。

「あんまり興味なさそうでしたよね。すぐ帰るみたいだし、残念ですね」

「まあ、ピッチの連中に期待するしかないな。とりあえずあいつらが勝たねえことには、魅力もくそもねえかんな」




「監督、阿間貴弘。以上、ライプス富山のメンバー紹介でした」

 その頃、スタジアムではDJの、丁寧で淡々としたアナウンスがこだましていた。スタメン発表の時間で、調度アウェーの富山のスタメンとベンチ入りメンバーの発表が終わったところだ。


 そして、BGMにファイナルカウントダウンが流れると、テンションを上げたDJのアナウンスが響いた。

「さあ〜っアガーラサポーターのみんなあっ!大変お待たせしましたっ!続いては、アガーラ和歌山、本日のっスターティングメンバー、ご紹介しましょうっ!!」

 このアナウンスに、満杯のホームゴール裏のテンションは一気にヒートアップした。



「神セーブ連発、世紀の守護神っ!背番号、20。ゴールキーパーっ、友成っ哲也っ!」

『(ドンドンドン)とーもなりぃっ×4』

「チームのために汗をかく、走るファンタジスタっ!背番号、10。ディフェンダー、小西っ直樹っ!」

『(ドンドンドン)こにしぃっ!×4』

「逆境に屈しない、熱き魂のファイターっ!背番号、15。ディフェンダー、園川っ良太っ!」

『(ドンドンドン)りょおぅたぁっ!×4』

「成長止まない、紀州のヘラクレスっ!背番号、5。ディフェンダー、大森っ優作!」

『(ドンドンドン)おーもりぃっ!×4』

「駆け上がれっ!紀州のリーサルウェポンっ!背番号、14。ディフェンダー、関原っ慶治っ」

『(ドンドンドン)せぇきはらあっ!×4』

「未来の舵取担う、王国育ちの司令塔っ!背番号、27。ミッドフィルダーっ、久岡っ孝介」

『(ドンドンドン)ひさおかぁっ!×4』

「攻守に躍動する、小さな大黒柱っ!背番号、2。ミッドフィルダー、猪口っ太一!」

『(ドンドンドン)たいちぃっ!×4』

ぶが如く、電光石火のアタッカー!背番号、11。ミッドフィルダー、佐久間っ翔っ!」

『(ドンドンドン)さっくっまあっ!×4』

「正確無比にパスを放つ、レフティースナイパーっ!背番号、8。ミッドフィルダー、栗栖っ将人!」

『(ドンドンドン)くりすぅっ!×4』

「ピッチを吹き抜ける、一陣の風!背番号、16。フォワード、竹内っ俊也!」

『(ドンドンドン)としやあっ!!×4』

「欲するのはゴールのみっ!人類無双のストライカーっ!背番号、9。フォワード、剣崎っ龍一!」

『(ドンドンドン)りゅういちぃっ!!×4』

「続いてリザーブメンバーの発表です。冷静沈着を体現する、静かなる守護神!背番号、40。ゴールキーパー、吉岡っ聡志!」

『(ドンドンドン)よしおかあっ!×4』

「勝ち点3まで、フルタイムフルスロットルっ!背番号、21。ディフェンダー、長山っ集太!」

『(ドンドンドン)ながやまあっ!×4』

「港町発、琵琶湖経由のパワフルストッパー!背番号、23。ディフェンダー、沼井っ琢磨!」

『(ドンドンドン)ぬまたくうっ!×4』

「イレブン鼓舞する、ピッチの闘将!背番号、17。ミッドフィルダー、チョンっスンっファーンっ!」

『(ドドッドドンドン)ちょーんすんふぁんっ!×4』

「ジパングさすらう、昇格請負人!背番号、31。ミッドフィルダー、マルコスっソウザっ!」

『(ドンドンドドドン)まるこすそうざあー!×4』

「そびえ立つ、紀州の摩天楼!背番号、18。フォワード、鶴岡っ智之!」

『(ドンドンドン)つるおかあっ!×4』

「バイタルエリアを蹂躙っ!ゴールをこじ開ける重戦車っ!背番号、22。フォワード、西谷っ敦志」

『(ドンドンドン)あつしぃっ!×4』



「監督は、情熱が擬人化した、ハイテンションジェネラル!ヘーンドリックっバドマンっ!」

『(ドンドンドン)ばどまあんっ!×4』


「そして、ピッチのイレブンに勝利のエネルギーを与え給えっ!背番号、12、アガーラっサポーターあっ!」

『(ドドッドドンドン)わあかやっまっ!×4』



 それぞれの思いが詰まった開幕戦の幕が、いよいよ開く…。


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