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そのころの前監督

今回短め。前作での監督の日常です。

 磐田でチームが試合をしている頃、アガーラ和歌山のクラブハウスでは、前監督の今石博明GMが選手のリストアップに腐心していた。無論、チーム力を高める補強のためである。ただし、「来シーズン」という枕詞がつく。

 今回の補強を今石GMは「シーズン中も心配いらない満足のいく補強だった」と新体制会見で言い切ったが、本心はそれがJ2仕様であるとも考えていた。

おそらく今シーズンの昇格戦線は、苦しみながらも十分超えることはできるという目論みを持っていた。ただ、今の戦力のままではJ1では通じないとも考えていた。ほとんどがプロ1、2年目の新兵ばかりでベテランの多くもキャリアはJ2で重ねたものが大半だ。実績があると言えるチョンやマルコスは年齢の不安を拭えない。気が早いかもしれないが、J1で戦う上では若い実力者が不足していたのだ。

「20代前半でJ1の実力者となると、まあレンタルがメインだろうが…やっぱ安月給のボロクラブにはそうそう来ちゃくれねえか。うちの化け物がエサになるかね」

「失礼します」

「おう、ご苦労さん」

 資料をあれこれ見ていると、部屋に移籍担当の川辺スカウトが入ってきた。今石は一通りの成果を聞いてみる。

「なあ、なんか海外に面白そうなやついたか?」

「いろんな国のクラブみてますけど、中東や北欧、中国なんかはレンタルの狙い目と見ていいかも知れません。経営が不安定で給料未払いにウンザリしてる選手も少なくないですし」

「それを考えりゃ、つくづくJリーグってのは世界に誇れるよな。どんな貧乏の弱小クラブでも経営はまともだからな。まあ、完全移籍の軍資金は集まらねえがね」

「あと南米のクラブには日本人がいいの何人かいましたね。一応これが資料です」

 手渡されたのは写真付きのレジュメだ。それぞれのプロフィールや成績などが列挙してある。

「意外にいるね。まあ、日本だけで成長するのは難しいからな。サッカーの本番でやりたいってのは分かるな」

「ただ、日本で結果が出てないのに渡ってる選手が多くて…当たり外れは激しそうですね」

「そうでもねえよ。指導者の眼鏡にかなわなかったり、チームの雰囲気に馴染めなかったりで、そんな中で『俺はこんなもんじゃない』って行くやつも少なくねえが、ただの勘違い野郎はすぐに帰ってくる。生存競争は日本の比じゃねえし、未だにプレーしてるってことは何かしら武器があるか、もしくは負けん気の固まりかだ。へたな大学生よりかは魅力だ」

 今石の持論に川辺は頷いた。他国でプレーすることは、それだけ厳しくもあるのだ。

「まあ、時期が早いから国内組はまだ無理だ。あとでチェックしたやつ渡すから、一休みしたらなんとかコンタクトとってくれ」

「分かりました」


 川辺が部屋を出たあとに、今石GMの携帯に着信が入る。相手は新卒担当の片山スカウトだ。

「おう。どうだい、メドは立ちそうか。元Jリーガーの大学生は」

 今石の質問に、電話の向こうの片山の声色は冴えない。

「うーん…いることにはいるんですよ。FWに何人か。でもうちの連中と比べるともう一つで」

「中盤とかにコンバートしたらどうだ」

「どうでしょうね、スピードとスタミナのどっちも及第点どまりなんで…。やっぱ大学生は新卒の方が見込みありますね」

「ま、争奪戦になったらうちには勝ち目ないからな。そのへん苦労かけるだろうが、なんとか頼むぜ引き続き」

「了解です。またなんかあったら知らせますんで」



 電話を切ったあと、今石は天を仰いでため息をついた。

「まあ…、なんとかウルトラCな補強を一つか二つ決めたいね」

 そうつぶやいて再び資料を見た。


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