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不気味

「従来どおりの4-4-2か。システムは前任者の踏襲といったところか」

 コールされた和歌山のスターティングメンバーを見て、磐田の守下監督はつぶやいた。

「ほぼ毎試合メンバーやシステムをいじってたそうだが、そろそろ固めてきたか」

「まあ、選手が一番やりやすい布陣を敷いたんでしょねえ」

「・・・それはつまり、うちを倒しやすい布陣でもあるということだ。受けてたとうじゃないか」



「さてと、どう攻めていくかね」

 試合は和歌山のボールでのキックオフとなった。センターサークルからボールを受け取った久岡は、ゴールを導くための策をめぐらせていた。

「まあまずは、お前さんに走ってもらおうかい、セキ」

 久岡はすでに動き出している関原の足元にパスを放つ。ボールは狂い無く関原の足元に収まった。

「先制パンチと行こう。結木っ!」

 そして関原は逆サイドの結木へサイドチェンジを図る。結木はボールを受けるとそのまま攻め上がりを試みる。が、すぐに磐田の左サイドバック・楠本に詰め寄られる。そこに後方から小西が援護に来た。

「結木、よこせ」

「小西さん」

 楠本をひきつけながらのバックパス。小西はダイレクトで2トップ目掛けてロングフィードを打った。


「ようしっ!任せろぃっ!!」

 このボールに剣崎は飛び上がる。同じタイミングでセンターバックの菅原も飛び上がる。ほとんど同じ背格好の二人が競り合う。これにはじき出されたのは剣崎のほうだった。だが、竹内がすぐにボールにつめていた。竹内はボールを拾うやすぐにシュートを打つ。これはキーパーの羽田にはじかれるが、さらに栗栖がこぼれ球に詰める。そして意表をついて右足でのシュートを打った。完全にキーパーの逆をついたが、逆足のシュートは精度に欠きゴールマウス右にそれてゴール裏に消えていった。

「なんで左で蹴らねえんだよ、クリ」

「別にいいじゃん。たまには右でもシュートが打てるってところを見せとこうって」

「でももったいなかったな。どうせならフリーのときにしとけよな」

 先制のチャンスを逃し、竹内は栗栖を愚痴り、栗栖は飄々とそれを返す。

 序盤、和歌山はペースを握った。長短織り交ぜたパスワーク、大胆なドリブル突破、積極的なミドルシュートなど、多彩な攻撃で磐田ゴールを襲う。だが、守下監督はどこか違和感を覚えていた。

「連中は若い選手が多いのに、なかなかどうして。堂々たるプレーを見せるじゃないか。昨シーズンの快進撃は伊達ではない訳だ。…だか、なにかすっきりしないな」

「どういうことですか、守下監督」

 コーチからの質問を、守下監督は思慮深い表情で答えた。

「どうもひっかかる。連中、連動してうちの弱点をついている訳ではない。どこか雑なんだ。『何となく攻めている』という感じだ。迫力があるにはあるが、横の連携を欠いている」

「横の連携、ですか」

「つまり…上手く言えないが、個々の発想で適当に攻めている。そんな感覚なんだよな。和歌山の監督は何を考えているんだ?」




「しきりに私を見ているな。フフフ、モテる男は辛いよ」

「…まあ、見るでしょうね。こんな雑な攻めばかりしてたら」

 敵将の仕草にバドマン監督はおどけたが、松本コーチは相手にせずにぼやく。

「今石もなかなか無茶をする監督だったが、あなたも負けず劣らずですよ。『気のむくままにせめなさい』なんて…。今年も頭の痛い監督に仕えるとはねえ」

「ハハハ。まあ、胃薬の世話にならない程度ですませるよ」

 そしてバドマン監督の顔つきが変わる。

「やはり、J1で戦い続けているクラブだけのことはある。若手中心の編成で来ているが、ほぼフルメンバーの我々の方が苦労しているね。攻撃がある程度通じているのは、我々の攻め方が読めないだけだ」

「日本代表でもあるエース前野とサイドバックの駒田を外しているとはいえ、控え中心でここまで組織的に戦えるのは、それだけ向こうの監督が自分の意図を浸透させているんでしょうね」

「うむ。あとはやはり戦場がJ1であるということだ。特に1対1においてはその差が出ている。激しいがそれでいてクリーンだ。後半はそこを手入れした方がいいな」

「誰か、準備させますか」

「いや、その必要はない。ただ、やらせるなら全員にやらせてくれ。…敵に少しでも取っ掛かりを与えたくはない」

「ぬかりないですね」

「我々は格下なのだ。もっと相手のリズムを狂わせておきたいからね」


 さて、ピッチの方はというと、ここまで空中戦で旗色の悪い剣崎が、相手の技量と自分のふがいなさに苛立っていた。

「ちくしょう…。エースたるものもっとゴールをこじ開けねえといけねえのに。なんか足引っ張っちまってんなあ」

 原因はわかっている。自分の対応に入る菅原に対してことごとく先手を取られているからだ。自分の方がジャンプ力や俊敏さが勝っているとは感じていたが、菅原のプレーはそれを補うほどの判断の早さやポジショニングを見せていた。

「…むう、J1となったらこんなセンターバックばっかりか。なかなかきついな」

「なんだよ、随分と弱気じゃないか」

 2トップを組む竹内が、珍しく覇気のないエースをたしなめる。

「そう落ち込むなって。俺だってさっきから裏とるの苦労してんだからさ」

「おまえも?」

「ああ。J2とJ1って、やっぱ差があるのかなって実感してるよ」

「はやく来てえなあ、ここ。こうやって相手に抑えられても、すげえスッキリするぜ」

「スッキリ?」

 悔しがりながらも、むしろ笑みを浮かべる剣崎に、竹内は首を傾げる。剣崎は原因を話す。

「J2って数で抑えこみにくること多いじゃねえか。ライン下げてガチガチにゴールを固めたりとかよ。でもJ1はそれほどでもねえし、1対1の局面で鍛えられてる奴らが多いからよ、抑えられても、なんつうか…上手く言えねえが」

「まあ、何となくわかるさ。確かに、人海戦術で来られるよりは面白いよな」

 そして剣崎は不敵に笑いながら言った。

「まあ、俺も今年は2年目。去年みたいにただがむしゃらにやるだけだったら、多分二桁すら無理だ。だから今年は悩んでやることにしたんだ。とことん悩んで、それをエネルギーにして、誰も敵わないようなストライカーになってやる。今日はその第一回だ。ハハ」

 そのまま走った剣崎を見て、竹内は肩をすくめた。

「まだ成長する気かよ。こりゃ負けてられないな。得点王が成長するなら、MVPの俺も一皮むけないとな」


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