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行く人来る人

 J2もJ1もリーグ戦を終え、あとは元日の国立を目指すだけとなった2013年。

 リーグ優勝でJ1昇格を果たした和歌山は、今年もチームを離れる人間がいた。

 まず首脳陣からいくと、来シーズンもバドマン監督が指揮をとるが、宮脇コーチがユース監督に配置転換、村尾フィジカルコーチが年齢的な理由で退任することになった。代わって浦和で代行ながら監督経験があり、清水や広島でコーチを歴任した竹内貴久氏が新任のヘッドコーチとなった。元日本代表であることより、竹内俊也の父あることの方が、和歌山サポーターの知るところだ。同じくフィジカルコーチに迎えられるは、スコットランド随一の名フィジコ、ゼト・マッケンジー氏が着任。バドマン監督の元チームメートと言う間柄で、その理論はブンデスリーガやリーグ・アンで頼られた名伯楽である。



 続いて選手。今シーズンは戦力外通告なきシーズンオフだが、まず佐久間が横浜に帰還。さらに出場機会を求めて小西が新潟、園川が鳥栖、結木が尾道へ。さらにJ2残留を果たした岐阜から再びラブコールを受けた王が、悩み抜いた末に決断。いずれも完全移籍でクラブを離れた。また、久岡が磐田、米良が水戸へ貸し出されることが決まり、引退した村主と合わせて8人が年内に退団した。

 一方で入ってくる選手たちは、聞きしに勝るくせ者揃いであった。まずもって極秘裏に進めた移籍話をマスコミに開示した際、特にサッカー関係者を驚かせた。


 東京Vで背番号10を背負った当代屈指の司令塔、小宮榮秦が完全移籍で加入したのである。

「なんか外から見てて、だんだんこいつらが面白く思えたんでね。まあ、俺が入ったからには片道切符にはしないつもりですよ」

 相変わらずの厚顔ぶりではあるが、意外と和歌山の雰囲気に合いそうな選手ではあった。

 同じ日、韓国人のソン・テジョンの獲得もリリースされた。年代別母国代表の常連で、爆発的な突破力と殺意すら感じる鋭いスライディングとタックルの技術を持つサイドバックだが、とりわけ韓国のネット上ではスレッドが炎上寸前となる衝撃となった。

 ロンドン五輪の代表入りが確実視された中、合宿中先輩と対立、のちに暴行事件を起こして追放処分を受けた札付きで、所属するKリーグでもそのカードコレクターぶりばかり際立ち、「狂人になぜか職を与えるクラブがあった」と話題を呼んだ。ちなみに入団に際してソンのコメントはない。


 そのほか、ユースからは得点王となったFW須藤京一と「栗栖二世」の呼び声高いMF根島雄介が昇格。スペインの二部リーグでプレーしていたストライカー佐川健太郎、川崎から代表経験もあるセンターバックの仁科勝幸、残留争いの修羅場をくぐり続けた、大宮の万能DF村瀬秀徳らを獲得。ポテンシャルと経験値を兼ね備えた逸材を揃えた。



「しかしまた、ずいぶん派手な面子になりましたねえ。日本だけでなく韓国すら驚かせることになるとは」

 12月のある日、クラブハウスの社長室にて竹下社長と今石GMが話していた。竹下社長のつぶやきに、今石も苦笑する。

「ま、ただ真面目でそつない奴と比べりゃ多少アクの強い連中のほうが、安い上に戦力の目処が立ちやすいっすからね。『安物書いの銭失い』にはならないとは思いますよ」

「…そうなってはあなたの責任問題ですよ、GM。少なくとも、社会人としてのマナーは守ってくれる選手たちですよね」

「いやあ…まあ、年寄りどもはそうですけど、小宮とソンに関してはこれからっすわ。ハハハ」

 あっけらかんと言い切った今石に、竹下は若干顔を引きつらせた。一度咳ばらいしつ気を取り直し、今石に本題を振った。


「実はあなたを呼んだのは、来シーズンのスローガンを考えて頂きたいのです。それもいままでとは違う」

「いままでとねえ。確かに、うちはあんまりその辺は無頓着だったすからね」


 Jリーグの各クラブは、その年を戦う上でのスローガンを掲げるのだが、和歌山はその「ごく普通」ぶりが際立っていた。Jに昇格した2008年から順に、「全力疾走」「出し尽くせ!」「HEARTBEAT、2010」「ジャンプアップアガーラ」「新生アガーラ、全力疾走!」。今年は「絶対昇格」だった。


「いろいろあるけど、どれもこれもインパクトないっすからね。確かに初めてのJ1なら、少し個性がいりますね」

「何かいい案、ありますか」

 不安げに聞く竹下に、今石はニヤリと返してペンを取り出した。

「いや実はね、温めてた案があるんすよ。我の強い連中ばっかなんで、こういうのがいいかなってね」


 今石はそう言いながら、四字熟語を書き出した。

『我貫猛進』と書かれていた。


「がかんもうしん…と読めばよいのでしょうか。なかなかユニークですね」

「自分のスタイル、信念を貫いてひたすら前に進む。未知の世界に挑むにはピッタリでしょ」

 今石の提案に、竹下は即決で採用した。




「そうりぃやっ!」

 人気のない練習場で、咆哮が響く。J2の歴史に燦然と輝いた剣崎は、今日も黙々とシュート練習をする。



(待ってろよJ1の野郎ども…。てめえらのゴール、まとめて風穴開けてやらぁ!)

「せいやあっ!!」



 渾身のシュートがまたネットに突き刺さる。





 人類無双のストライカーは、今もなお牙を研ぎつづけていた。

2ndシリーズ、これにて完結です。一年間ありがとうございました。


今年のシーズンオフには番外編を執筆します。過度に期待せずにお待ちください。


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