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新監督の下で

新シリーズ、スタートです。末永く見守ってください

 2013年1月5日。まだ正月の松が取れないこの日、バドマン新監督率いるアガーラ和歌山は、紀の川市内の練習場で始動した。本来なら体を作るキャンプは暖かい沖縄や九州南部で行うのが常だが、地元で始動せざるえないのが貧乏クラブの性である。

 比較的温暖とはいえ、和歌山県の冬は寒い。選手たちはウェアを着込んでのトレーニングとなった。

「ウォームアップは手を抜かないで下さぁい。気温が低いとつまらない怪我しやすいですからねぇ」

 ランニングやストレッチをこなす選手に声をかける女性は、新任のトレーナーでバドマンの娘のリンカだ。多くの選手とともに彼女もまた、新シーズンを共に戦うメンバーだ。ピッチ内の紅一点とあって、選手たちの気持ちも違った。

「やっぱハーフはかわいいなあ。尾道でもサポーターにすらあんな可愛い女の子いなかったなぁ」

 今シーズンから加入した長山は、リンカを見ながら鼻の下を伸ばしている。そんな長山を佐久間は冷ややかな目で見る。

「お前もなかなかな節穴だな。美人に限って性格悪いんだよ」

「いや、まれにはいるぜ。才色兼備な子が」

「子って言ってっけど、あいつ俺達と同い年だぜ」

「ひゃあどストライクっ!俺同い年がタイプなんだよ」

「…お前みたいなやつとサイドバックを争うのか。負ける気しねえわ」



 メニューは徹底的にフィジカルトレーニングに特化したメニューが組まれた。ボールを扱うメニューとの比率は8:2、いや9:1と言えるくらいで、筋力、走力、持久力を鍛え上げた。そしてバテた状態でミニゲーム形式の練習が行われた。「疲れた状態でいかに頭を働かせられるか」というバドマン監督の目的があった。乳酸がたまった身体でのゲーム形式では、当然ミスも多い。パスに対しての動き出しがズレたり、タックルに簡単に倒されてしまう。フリーキックもイメージ通りに蹴れなかったりした。

 そんな状態で光ったのは、やはりエースストライカーだった。


「っぉりゃっ!!」


 足が止まったディフェンダーを振りきって、裂帛れっぱくの気合いでシュートを叩き込んだ剣崎。気温5度のピッチコンディションで、ただ一人半袖半ズボンで湯気を立たせていた。それでいて表情は涼しかった。

「どしたい大森よぉっ!足止まっちまったら誰も止めらんねえぜ」

「はぁ、お前、あんなに筋トレした後なのに、よくそんだけ動けんな」

「技術がねえ分、体力で勝ちてえかんな。こんぐらいでへばってられっかよ。それに、エースが足止めたら誰が点とんだ?」

「はぁ…すげえよな、ほんと」


 連日、まるで部活の高校生のように体をいじめるメニューが続く。ただ、ばてている選手もいる中で涼しい顔を続けている選手もいる。特に目を引いたのは大卒ルーキーの二人である。関原には「よくこんなやつを見つけたな」、久岡は「うわさ以上にすごいな」と日々評価を上げていた。

 そんな中、キャンプ最終日を迎えた。



「諸君。この二週間、決して良いとはいえない気候の中で、過酷なトレーニングをきっちりこなしてくれた。賞賛とまでは行かないが、プロとしての姿勢、気概を持っていることを大いに実感できた。そこで今日はユニークな紅白戦を行いたいと思う」

 世辞を並べた後、バドマン監督は手にしたプリントを読み上げる。

「ではまずAチーム。キーパー友成・・・」


Aチーム システム3-5-2

GK友成哲也

DF江川樹

DF大森優作

DF沼井琢磨(新)

MF猪口太一

MF栗栖将人

MF結城千裕(新)

MF竹内俊也

MF桐嶋和也

FW剣崎龍一

FW西谷敦志


「全員・・・同い年か」

 集まったメンバーを見て剣崎がつぶやく。

「同級生だけでスタメン組めんのか。面白いが正直どうかと思うな」

 友成は腕を組みながら、率直な感想を言い切った。ほかのメンバーも似たような思いだ。続いてバドマン監督はBチームのスタメンを言う。


Bチーム システム 4-4-2

GK吉岡聡志(新)

DF長山集太(新)

DF川久保隆平

DF園川良太

DF関原慶治(新)

MFチョン・スンファン

MF久岡孝介(新)

MF佐久間翔(新)

MFマルコス・ソウザ(新)

FW矢神真也(新)

FW鶴岡智之


「こっちはベテランと新入りのちゃんぽんか」

 Bチームに入った佐久間の感想だ。注目の大卒ルーキーもこちら側である。

「チョン、このメンバーならどっちが強いと思う」

「さあな。やってみんとわからんが、攻撃力は間違いなくむこうだ。キーパーも手ごわいから、点を取るのは至難だぞ」

 両外国人ベテランは、対するAチームについて話し合う。


「さて、一部のけが人を除いて、すばらしいオーダーを組むことができた。今からこのメンバーで前半46分、後半48分のゲームをしてもらおう」

「あれ、時間なんでバラバラなんですか監督」

「竹内君。サッカーは時間通りには進まない。平均的なロスタイムをイメージして時間を付け加えただけさ。あと、君たちにはもうひとつルールを加えよう」

「ルール?」

「うむ。ファウルのあとのフリーキックだが、すべて間接フリーキック(直接ゴールを狙えないフリーキック。壁を立てずにその場で蹴る。いわゆるリスタート)。コーナーキックやPKは別だが、極力ピッチの中では流れでの得点を意識してもらう。お互い連携はまだだから互角にはなるだろう。問題は『このメンバーでの長所と欠点を早く見つけられるか』だ。ちなみに3-5-2と4-4-2は私が用いる基本戦術だ。どのようなプレーを見せられるか、楽しみにしているよ。1時間、お互いにミーティングを実施して試合開始だ」


 そういってバドマン監督は笑った。

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