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あなたになりたい
「じゃあ私は『あなた』になりたい」
どうしてあのとき、言ってしまったのだろうか。
持っているものならすべてあげるから、何でもするからと言われて頭に血が上ってしまった。
何もできないくせに、すべてを持っている目の前の存在がいつだって疎ましかった。
小さくて、振り払うことすらできない脆弱な生き物。
けれどいつも青い顔色は、そのときばかりは紅潮し、嬉しそうに破顔した。
いいよ、と軽く言ったその声に耳を疑う。
叶うはずのない、愚かな我侭を何でもないことのように受け入れた彼。
見つめた瞳は、どこまでも本気の色を浮かべていて。
冗談だとすぐに言わなければならないのに、取り消さなければならないのに―――――できなかった。
心の奥底でひそかに望んでいた想いは、誰よりも疎み、嫌っていた存在によって叶えられた。
暗い、悦びとともに――――――。