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王と王妃  作者: くま
1章
2/19

あなたになりたい

「じゃあ私は『あなた』になりたい」


 どうしてあのとき、言ってしまったのだろうか。

 持っているものならすべてあげるから、何でもするからと言われて頭に血が上ってしまった。

 何もできないくせに、すべてを持っている目の前の存在がいつだって疎ましかった。

 小さくて、振り払うことすらできない脆弱な生き物。

 けれどいつも青い顔色は、そのときばかりは紅潮し、嬉しそうに破顔した。

 いいよ、と軽く言ったその声に耳を疑う。

 叶うはずのない、愚かな我侭を何でもないことのように受け入れた彼。

 見つめた瞳は、どこまでも本気の色を浮かべていて。

 冗談だとすぐに言わなければならないのに、取り消さなければならないのに―――――できなかった。

 心の奥底でひそかに望んでいた想いは、誰よりも疎み、嫌っていた存在によって叶えられた。

 暗い、悦びとともに――――――。



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