正妃
雲一つない―――――晴天。
その日、世継ぎたる王太子と、その正妃との婚礼が挙げられた。
正妃となった彼女は、名門公爵家の長女であり、正妃となる前まで王太子唯一の側妃として寵愛を受けていた。
彼らの間には既に半年前に生まれた王子が一人おり、王子が生まれた後も彼らの仲睦まじさは有名だった。
儀式の合間にも見つめ合い、何かと王太子が妃に手を貸す姿に誰もが笑顔になり、喜んだ。
まさかその裏側で、
「……正妃になったからって自惚れないでよ」
「レティ」
「側妃になる前に『好きな人ができたらその人に嫁ぐ』って言ったの、あれ有効だから」
「おい!」
「もちろんあの子も連れて行く」
破局めいた会話が成されているとは知らず。
ふいっと顔を逸らすレティシアに、シルヴァンは焦る。
イーデン王妃、ローザがフェイアンに来ると決まってから、レティシアの機嫌は悪かった。
自分に原因があるだけに、シルヴァンはどうにも立場が悪い。
「レティ」
「………」
笑顔で民衆に手を振りながら、シルヴァンを無視する。
何度か呼びかけた後、返事がないことに諦め。
手を伸ばして細い頤を捕える。
何、と目線で問うレティシアに、
「……愛してる」
と初めてその言葉を囁いた。
見開かれる大きな瞳を見つめながら、そっと唇を重ねた。
大きくなる観衆の声を聞きながら、二人は目を閉じたのだった。