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強い人
「あなたは強い人だから」
小さな囁きのような、吐息のような声だった。
だからそのあとに何か続いたけれど、その続いた言葉を、聞き取ることはできなかった。
困ったような微笑を浮かべながら、けれど決して首を縦に振ってはくれなかった彼女は、あのとき何と言ったのだろうか。
どうして聞き返すことができなかったのか。
あのとき聞き返していれば、今こんなにも苦しむことはなかったかもしれない。
初めて会ったときから、いやそれ以上に美しく成長した女性。
誰よりも焦がれて、手に入れたいと手を伸ばした最初の人。
けれど決して自分の手を取ってくれなかった、愛しい彼女。
気が狂いそうなほどの想いは、未だに自分の中から消えてはくれない。
彼女は、今何を思っているだろうか。
願わくば、彼女のこれからが幸せであればいい。
一切の不幸など寄せ付けない、誰よりも幸せな生を歩んで欲しい。
最早願うことしか許されない自分は、異国へと嫁いだ彼女のためにだけ祈る。
光あれ――――と。