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CDS6

「にゃにゃにゃ! 大事件ッスよ!」

 背中の羽で空気を切り裂きながら、一人の少女が宙を舞った。

 機敏な動きで空を切るその体躯。それは長いツインテールを従えて、虚空のあらゆる面を新体操の床よろしく激しく蹴った。

 その度に少女の身をかすめる何かを鮮やかにかわしてみせる。

 まるで背中の羽で本当に飛んでいるかのようだった。

 少女はキューピッドの姿をしていた。キューピッド姿でツインテールを可憐に従え、自由自在に空を舞っていた。

 そう、先程魔族の眷属を光の矢で射抜いたツインテールの少女だ。

 空を舞踊るその少女の身をかすめたのは、何故か黒く輝く光の矢だ。光なのに黒い。

 少女は空中で一回転した。鋭く身を翻して一際大きい黒い光の矢を避けるや、もう一人のキューピッドの横に着地する。

「やるッスね!」

 宙を自在に舞った少女は地面に降り立つや否や弓を構えた。

 その弓の構え方は随分と大げさだ。何処から誰が見ても必要以上に振り回している。

 少女が降り立ったのは、夕闇近い街中の商店街。コンビニエンスストアの前。

 そんな何処にでもある日常の舞台に、天使の羽、天使の輪、天使の弓を持ったキューピッドが舞い降りた。それもかなり天使らしくないガサツさで。

 周囲の人々の視線が一斉にこの少女に集まった。

「どうやらこの南柚希菜みなみゆきな様の――」

 柚希菜と名乗ったツインテールのキューピッドは、やはり大げさな身振り手振りとともに口を開く。商店街の街路に、そこだけはキューピッドらしからぬスニーカーを捩り込むようにして立ち、こちらもやはり矢のない弓の弦を大仰に引いた。

「本気が見たいようッスね!」

 そして柚希菜がそう言い切るや、光の矢がこつ然とその弓に現れた。それは先に蓮華が見せたものと同じく光でできた矢だった。

 しかしすっと優雅なフォルムを描いていた蓮華のそれとはやはり随分と違う。

 まるで暴れ狂うプラズマのような光を放っている。奔放に放電する雷をそのまま光の矢にしたかのようだ。

 周囲を取り囲んでいた人々が、溢れ出るその光に恐れをなして一歩後ろに退いた。

「最初から本気を出しなさい……」

 もう一人の少女が抑えた口調で言った。言葉に起伏がない。

 先程柚希菜と一緒にグラウンドで魔族の眷属を倒した少女だ。

 少女はいかにも低血圧と言わんばかりに、その言葉に力を込めなかった。

 だが今回は呆れて声に力が入らなかったようではないようだ。その証拠にその目がやはり寝起きのように半目に開かれている。これが素なのだろう。

 その二人のキューピッドの足下では、怯えた顔の女性が腰を抜かしたように道路にへたり込んでいた。

千佳ちかッチ! 冷たいッスね」

「今度バイトに入った三組の突抜さん。かなりの魔力らしいわよ。やっぱり、エース交代かしら」

「何を! あの魔族を倒して、実力の違いを見せつけてやるッスよ!」

「また油断して。ダメよ。柚希菜」

 千佳と呼ばれた半目の少女は、その目で柚希菜と同じ方を見る。二人の前に男が立ちはだかっていた。

 外見は普通の会社勤めのサラリーマンと変わらない。

 背広にネクタイ、革靴。どれも手入れが行き届いているようにすら見える。

 地面に浮いている以外は人間だと疑いようがない。

 そう、その男は何に支えられることもなく宙に浮いていた。

 そんな異様な人物を町ゆく人々が驚いたように取り囲んでいた。いや、直接その顔を覗き見た者から腰を抜かさんばかりの勢いで逃げ出していく。

 この宙に浮く会社員は、黒い光の矢を素手から放ち――

「厭な笑み。流石魔族ね……」

 そう、全身を直に撫で回すかのような視線で、おぞましい笑みを浮かべていたからだ。

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