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CDS5

「そして! そしてどうなったのよ!」

 雑居ビルの一角に、けたたましい少女の声が響き渡った。その叫びでビルの鉄骨そのものが震えた。そんな錯覚すら中に居た者は覚える。

「それで、それで! どうなったの? どうだったの? どうしちゃったのよ!」

「ちょっ、ちょっと! そんなに揺らさないでよ!」

 けたたましい少女とは別の声が応えた。それは魔優子の声だ。体ごと別の少女に揺すられて、その声が何処か悲鳴めいている。

「さあ、マユ! この佐倉愛由美さくらあゆみちゃんに、全て隠さず情報開示なさい!」

 ビルが古いのか。少女の声が大きいのか。ビルは更に余韻を引いて震えた。

「話すわよ。話すから、ひとまず離してよ」

 マユと呼ばれて、魔優子は凛々しい眉を困惑に歪める。どうにもいつもこの友人は、魔優子の眉を見てマユと言っているようなのだ。

「離すと話すの交換条件ね? 分かったわ」

 愛由美と名乗った少女は、スチールの長テーブル越しに掴んでいた魔優子の胸元を離した。こちらも魔優子と同じ姿だ。背中から羽が生え、頭に光の輪が浮いたコスチュームに身を包んでいる。

 愛由美は髪が長い。だがその長い髪を実に無造作に後ろで括っている。おしゃれで伸ばしているのではないようだ。単に切るのが面倒で、伸びるに任せているのかもしれない。多少括り損ねているその長髪が、愛由美のそんな性格を物語っていた。

「さあ。愛由美ちゃんに語ってもらうわよ」

 愛由美はコスチュームのスカートから、携帯端末を取り出した。メモモードで起動し、タッチペンを構えると敏腕記者よろしく身を乗り出してくる。

 座っていたパイプイスを後ろに蹴り倒す勢いだった。

「学校新聞に載せる気ね? それは止めて欲しいんだけど?」

 こちらはパイプイスに座り直し、魔優子は凛々しい眉間に皺を寄せる

「何を! この愛由美ちゃんに、取材規制とは! 権力の濫用ね! 開かれた情報は、民主主義の基本よ! そんなんじゃ、ダメよ! むしろウキウキとリークしなさいよ!」

「何言ってんのよ?」

「違うの? なら包み隠さず全て話しなさい。取材源の秘匿は、完全を期すから安心して」

 愛由美がずいっと身を乗り出し、

「うわさ話ばかり流している愛由美に、そんなこと言われても信用できないんだけど?」

 魔優子も負けじとぐいっと身を乗り出した。

 魔優子の眉毛が疑問を表すかのように、横一文字に並んだ。

「それはプライベートの愛由美ちゃん! 今はジャーナリストの愛由美ちゃん! そして更に言えばキューピッドの愛由美ちゃん! 大丈夫よ!」

「もう。違いなんて分からないわよ」

「ほら! 修羅場? ドロドロ? 陰湿な空気? やっぱり破綻したの? で、その時の彼女さんの様子は? 男の人はどんな言い訳を?」

「やっぱり日頃と変わらないじゃない? てか、何で破局で話が進んでんのよ」

「違うの?」

「違うわよ」

「なぁんだ」

 愛由美は急に興味をなくしたのか、パイプイスに座り直そうとして、

「おわっ! 事件よ!」

 そこにイスがないことに気づかずひっくり返った。

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