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CDO12

 千佳が空を飛ぶ柚希菜の上に馬乗りになった。直ぐに後ろを振り返り相手の様子を確認する。女魔族マドカが遥か後ろに見えた。豆粒のような大きさだ。

「速度落として」

 柚希菜は二人分の体重の負担に耐えながらも、マドカ以上のスピードを出している。

 頼もしい限りだ。だが引き離し過ぎて、このまま追いかけるのを諦めさせては意味がない。諦めてとって帰られては、チームキューピッドが危ない。

「オッケーッス!」

 柚希菜が威勢よく返事をした。空を思う存分に飛んでいる。上機嫌なのだろう。

「スピードを落としてって……」

 千佳が返事の割には速度が落ちない柚希菜に、もう一度言い換えて言ってみた。

「落としてるッスよ!」

 微調整はやはり苦手らしい。本人としては力を制御しているようだが、速度は変わったようには見えなかった。

「分かった。旋回して…… 細かいことを頼んだ私がバカだったわ……」

「何を! ひどい言い様ッスね、千佳ッチ!」

「文句は後よ。回り込んで迎え撃つわ」

「任せるッスよ!」

 柚希菜が体を上にそらせた。大きな弧を描いて上昇していく。長いツインテールが揺れた。その度に千佳の顔を柚希菜の髪が打ちつける。

「わざとやってんの?」

「何がッスか?」

 柚希菜の体が完全に反転する。マドカの体が見る見る大きくなって近づいてくる。

「柚希菜…… 飛びながら矢を射れる?」

「誰にものを言ってるッスか?」

 柚希菜が体の上下を戻しながら弓を構えた。バランスを崩して左右に揺れる。

 千佳が落ちそうになった。慌ててツインテールを掴む。

「柚希菜。ちょっといじるわよ」

「?」

 千佳が柚希菜のツインテールを根元で結び始めた。

 マドカはもう全身がはっきり分かるぐらいに近づいている。

 千佳は幾つかの束に分けて固く結んだ柚希菜のツインテールに、左足を引っかけて立ち上がった。

「ひどいッス!」

 自慢の髪を固く結ばれてしまい、後頭部に足を乗せられた柚希菜が抗議の声を上げる。

「柚希菜。合図したら矢を放って」

 千佳は柚希菜の抗議を無視した。

「体が傾くッスよ!」

「なるべく水平を保って。矢は全力で。狙いは二の次。ありったけの威力で放って。矢を放ったら、真っ直ぐ魔族に向かって飛んで。ギリギリをかすめて」

「注文が多いッスよ!」

「できない?」

「できるッスよ!」

 二人は女魔族と目が合った。

「射って!」

 千佳が叫び、

「おりゃ!」

 柚希菜が有りっ丈の力で矢を放った。


 地面に激突する寸前――魔優子の体を蓮華が掴んだ。一気に上昇する。

「魔優子ちゃん! 大丈夫?」

 光助のいるビルの向かいのビルに二人は着地した。

「……」

 魔優子は返事ができない。意識は蓮華に掴まれた時に取り戻したようだ。だが痛そうに脇腹を押さえるだけで、声が出せていない。息も苦しげだ。

「怖い?」

 蓮華が訊いた。

「怖いわ」

 魔優子が答える。『怖い』と言う割には、力強い声だった。

「でも…… 守らなくっちゃ……」

 魔優子は光助を見た。真っ直ぐな視線だった。光助も魔優子を見ている。

「魔優子ちゃん……」

「チッ……」

 魔優子のひたむきな感情が蓮華を喜ばせ、人間の前向きな感情が魔族を苛つかせた。蓮華が嬉しそうに呟き、魔族が不快感をあらわにして舌打ちする。

「不愉快だぞ、人間!」

 魔族が左手の掌を魔優子達に向けた。蓮華がとっさに天使の輪を右手に移し前に突き出す。魔優子はその後ろで輪を頭に戻して弓を構えた。

「フンッ!」

 魔族は唐突に狙いを変えた。向かいのビルでこちらの様子をうかがっていた光助に、魔族の左手から放たれた雷が襲いかかる。

「がっ!」

 光助は文字通り電流に打たれたように、身をのけぞらせその場で倒れ込んだ。手に持った天使の輪が明滅する。

「光助!」

 魔優子が声を上げた。思わず光助の倒れ込んだ先に目を移す。向こうのビルの方が少し高い。倒れ込んだ光助の姿が見えなくなった。

 魔族が光助のいるビルに降り立つ。鉄さくの上に器用に着地した。

「チッ、一撃のはずが…… 天使の輪の力か?」

 光助はうずくまっているが、死ぬようなことはなさそうに見えた。

 天使の輪は力をなくしたのか、弱々しく点滅すると光らなくなった。

 天使の輪の加護はもうない。いつでも殺せる。

 魔族はそう判断したのか、光助から興味を失ったように顔を前に戻す。

「光助!」

 魔優子がたまらず駆け出した。姿が見えない。まずはと飛び上がろうとする。

「ダメよ! 魔優子ちゃん!」

 蓮華が慌てて止めようとしてか右手を上げる。だが掴み損ねた。蓮華の右手がむなしく宙を泳ぐ。

「ほらよ」

 魔族が薄く笑って、左手を払った。我を忘れて向かってくるキューピッドは隙だらけだ。

「キャッ!」

 飛び上がりかけた魔優子の足下に魔族の左手から黒い物体が放たれた。粘液質なその物体は魔優子の足に絡みつくと、足首から下全体を覆ってビルの屋上に魔優子を縛りつける。

「魔優子ちゃん! この!」

 地面に釘づけになった魔優子を守るべく蓮華が駆け出した。

 魔族が更に左手を振り上げる。

「く!」

 蓮華は次の一撃に備える為に、相手の左手に全神経を集中させた。

「足下がお留守だぞ」

「何?」

 蓮華は魔族のその一言の意味が理解できなった。

 だが足下を襲った衝撃に、直ぐに己の不注意を悟らされる。

「――ッ! しまった!」

 魔優子の足を覆っていた物体の一部が千切れ、蓮華の足首に覆いかぶさっていた。

「動けない!」

 魔優子が叫ぶ。蓮華も同じ状態だ。二人して身を捩るがビクともしない。

 魔優子と蓮華はビルの屋上で足を取られ、向かい合って動けなくなった。

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