表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/39

CDO4

「あっちゃー……」

 愛由美が小さく呟いた。

「……」

 魔優子はまだ動かない。

「やっぱり、知り合いなの?」

 愛由美と魔優子の反応を見た加奈子が蓮華に尋ねる。

「どっちともね。特に男の子の方は……」

 蓮華が言葉を濁す。

「……」

 その場に流れた雰囲気に皆が一瞬でその空気を理解したようだ。誰もが魔優子の顔を盗み見た。

 その気まずい空気を切り裂いて、

「蓮華!」

 千佳が皆に活を入れる為にか、珍しく大きな声でその名を呼んだ。同時に手まで打ち鳴らす。皆の注目が千佳に集まった。

「何を皆でぼっとしてるの? 蓮華まで。らしくない……」

「そうね、千佳。ごめんなさい。これは仕事ね。大事なキューピッド案件ね。誰にとっても大事な恋のお話よ。誰かの為に誰かが大事な気持ちが踏みにじられていい訳がないわ」

 蓮華が目に力を入れ直した。そして魔優子に気をとられまいとしてか、殊更真っ直ぐ愛由美に向き直った。

「愛由美、索敵して。五條光助くんのいるところに、魔族がいるはずよ。魔族の反応があるところに、光助くんがいる可能性が高いわ」

「了解! 任せて蓮華先生! 素敵索敵オペレータ愛由美ちゃんの出番よ!」

 愛由美もわざとげにオペレーション用の席に着く。やはり殊更大きな声を出すことで、今の仕事に集中しようとしているようだ。

「おっ! さっそく魔族反応あり! さすが愛由美ちゃん! 鼻が効く!」

「何よ、愛由美。それ機械の力でしょ? 鼻関係あるの?」

 加奈子が呆れたように肩をすくめた。

「何を! カナやん! くさいものを嗅ぎつける、この愛由美ちゃんの鼻! スクープだろうが、魔族だろうが、何だって逃しはしない!」

「そうッスよ! さっきはシュークリームの匂いも、嗅ぎつけてもらったッスよ!」

「そう! 愛由美ちゃんに隠し事など不可能!」

 ぬはは、ぐははと、柚希菜と愛由美は声を揃えて笑い出す。

「シュークリーム? それって? あたしの差し入れ? 隠し事って――冷蔵庫じゃない!」

「カナやんの家の自慢の商品――シュークリーム! おいしくいただきました!」

「大丈夫ッスすよ! 加奈子ッチ! ちゃんと残してあるッスよ」

「そうとも! ちゃんと一人一個ずつ残してあるわよ! 愛由美ちゃんに抜かりはないわ!」

「一人三個は回るように…… 沢山持ってきたんだけど……」

 加奈子の目が妖しく光る。その右手に光のムチが現れた。

「激怒。お仕置きね。激怒」

「駅前商店街。感度が低いわ…… 際立った活動はしてないのかな……」

 蓮華がモニターを覗き込む。

「同じ場所を動かないよ、蓮華先生。何か狙ってるんじゃないかな」

 愛由美がモニターから、蓮華に顔を向けて言った。そのお陰か愛由美の鼻先をかすめて光のムチが外れる。

 ムチの向こうでは、千佳がお仕置きの回し蹴りを柚希菜に食らわせていた。

 モニターには駅前の地図が映し出されている。

「あそこは……」

 魔優子の目がモニターに釘づけになった。

 駅前の商店街。記憶に間違いがなければ、あれはSIVの帰りに見つけたアクセサリー屋だ。思わず引き寄せられた店だ。

 誰かに買って欲しいと思ったアクセサリー類。その店に光助がいる。その事実が更に魔優子の胸を締めつける。

「てか、ここ知ってる! 女子ウケするアクセ屋さんだよね? えっ? やっぱり、何か話が進んでいるの?」

 愛由美が自分の発見の意味に驚いて思わず魔優子の方を向いてしまう。

「――ッ!」

 その魔優子が心臓が痛んだかのように、とっさに胸元を押さえた。

「苅田さん宛のプレゼントかもね」

「ちょ、ちょっと、蓮華先生。そんなはっきりと……」

「自分の恋に向かい合ってる娘が、きちんとその思いに報いてもらえるかもしれないのよ。いいことじゃない? 何を遠慮するの?」

「いや、確かにそうだけどさ……」

「逃げ回ってる娘より、よっぽど応援してあげたいわ」

「ちょ、蓮華先生。そこまで言う必要は……」

「……」

 魔優子が視線をそらした。

「……」

 千佳が苛立たしげにその姿を横目で見る。

 そんな千佳を柚希菜がニヤニヤしながら見守った。

「いや! でもいいな! アクセ! 愛由美ちゃんも、誰かにプレゼントされたいな!」

 愛由美が再度悪くなり始めた雰囲気を感じ取ったのか、殊更はしゃぐように口を開いた。

「あら、アクセなんか興味あるの? 愛由美」

「おっ、カナやん。バカにしてるな? 愛由美ちゃんだって女の子。プレゼントは欲しい! 年がら年中欲しい! そしてどうせなら、キラキラ輝くかわいい小物の方が――」

「換金性が高いから、大好きだって言ってました」

「コラッ! キュウ!」

「那奈です!」

「愛由美。モニターにもう一個反応があるわよ」

 蓮華が身を乗り出してモニターを指差した。

「あ、ホントだ。もう一つ魔族反応あり――と! こっちは苅田さんの家の近くだよね? 苅田さんは家にいるのかな?」

「やっぱり二人は同時に狙われていると…… 同じ案件なのね」

「そ、そうかな…… 偶然かもよ……」

 愛由美がチラチラと魔優子の様子を窺いながら言葉を濁して蓮華に応えた。

 蓮華がモニターから顔を上げる。そのまま見つめたのは魔優子の顔だ。

「……」

 魔優子はまだ視線をそらしていた。

「いずれにせよ出動よ。加奈子と唯は苅田さんをお願い」

「オッケー!」

「快諾。まかせて。快諾」

「チームブライドとチームキューピッドで五條くんのところにいくわよ」

「了解ッス」

「分かったわ……」

「……」

 魔優子だけが応えない。

「愛由美、おふざけなしで留守はまかせたからね。那奈は思念の中継をお願い」

「任せて、蓮華先生!」

「分かりました」

 蓮華の言葉に皆がそれぞれにうなづき返事をした。

 蓮華が率先して出口に向かった。皆が続く。だが魔優子だけが立ち止まったままだった。

 その魔優子を――

「ほら、いくわよ……」

 千佳が腕を掴んで連れ出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ