プロローグ
「ななな! 何で私が――」
女子高生突抜魔優子は、女子としては少々凛々しい眉を吊り上げた。
太い訳ではない。それなりに細いが、濃く力強いカーブを描いている。
やはり凛々しいという言葉が一番似合う眉だ。
「何で私が! こんな格好しなきゃならないのよ!」
魔優子はやはりその凛々しい眉を跳ね上げた。
魔優子はありもしない答えを虚空に求めようとしたのか、そんな凛々しい眉をその赤い顔とともにあちらこちらに向けた。茹で上げたように真っ赤な顔だ。
だがここはいたって普通の公園。
お昼の陽光が肌に温かい梅雨も終わりかけの公園だ。答えなど何処にも書いていない。
代わりに目に入ってくるのは公園の人々。
特に男女のペア。公園を散策したり、ベンチで休んだりしている仲睦まじい恋人同士達。
体を密着させる男女に時折目を奪われながら、魔優子は周囲を見回した。
魔優子は肩をすぼめていた。そしてかなり内股になっている。腰も引けている。
己の姿を隠そうとしてか、なるべく小さくなって目立たないようにしているようだ。
「『何で』って、世界がピンチだからだよ。魔優子ちゃん」
満面の笑みを浮かべた少女が、にこやかに答えた。
魔優子の先を歩き、しばらく後ろ歩きに切り替えてその笑顔を向けた。
同性の魔優子ですら目を奪われる美少女だ。
円らな瞳は万華鏡を覗き込んだかのように光を反射している。気品溢れる鼻柱は、神殿にでも使われる大理石の柱よろしくすっと立っている。可憐な唇はあたかも赤い宝石をはめ込んだかのよう。儚げな両耳は職人によって加工を施されたメノウの装飾品のごとくだ。
何よりその全てのパーツが左右対称――シンメトリーにできていた。
「だから! 何で『世界のピンチ』で私がこんな格好を!」
「可愛いじゃない」
「蓮華ってば!」
「ん?」
蓮華と呼ばれた少女は何処までも、にこやかに立ち止まった。どうやら名前を呼ばれたことがとても嬉しいようだ。
「だ、だから、ななな、何で。わわわ、私が! 私が…… せ、世界のピンチで私が――」
魔優子も立ち止まる。そして目の前の少女の姿に釘づけになる。その容姿もさることながら、少女の装いは人々の目を引きつけていた。
魔優子と同じ姿をしている。それでいて赤面が収まらない魔優子とは違い、にこやかにその姿をさらしている。
デザイナーズ制服かと見間違う程の可愛い服だ。少しでもスタイルに自信がなければ、とても恥ずかしくて着ていられない服だ。
自分が似合っているのか、魔優子には自信がないのだろう。
背中からは羽が生えている。矢はないが弓も持たされている。
更に頭上には原理不明の力で光の輪が浮いている。
どうにも魔優子には理解できない。己がこのような格好をさせられている理由が理解できない。そんな感じに魔優子は相手と己の全身を見回した。
魔優子は今一度眉を吊り上げる。
そう。この姿はどう見ても――
「何で私が、恋のキューピッドなのよ!」
恋のキューピッドだったからだ。