96
チガヤ王国言語を操るドラゴン、名は、ない。
『姫様の御子である貴方をずっとお待ちしておりました』
話が見えない!
「最初から説明してください」
約千年前。
チガヤ王国の国王の側室であった姫・キャサリン。
彼女はチガヤ王国では珍しくはない、竜の神子だった。
ドラゴンはその姫に仕えていた。
姫様は国王との間に子供を設けていた。
黒い髪に黒い瞳の、美しい少年。
国王が亡くなり、王妃に追われた姫は、子供を連れて逃げた。
それがこのハロンの山。
しかしその逃亡中、不慮の事故で子供は死んでしまう。
姫は自分の過失だと心を病み、あの魔方陣を描いた。
同じ魂を持つ者を、生まれ変わった子供のみを呼び戻すための魔方陣。
しかし姫は魔方陣にありったけの魔力を注ぎ、衰弱。
長くは持たず、子供が転移される前に亡くなった。
とりあえず。
「長く持っても千年じゃあ会えてないと思うけど」
「それをいうな。・・・魔方陣の話は出てこないが、チガヤ王国では割とメジャーな物語だな」
『姫様の願いは叶わなかったけれど、私は貴方に仕えるように託されました』
「と言われても・・・私が本当にその子供の生まれ変わりかとか、確かめようもないことだし」
『それは間違いありません。顔立ちも雰囲気も魔力の質も、すべてそのままでございます』
「・・・私は、どちらにせよ、現世の生活がある。元の世界に返して欲しい」
『・・・かしこまりました』
意外とあっさりだ。
『姫様がいない今、ご主人様は貴方1人。ですが今すぐという訳にはいきません』
「時期が決まっているということ?」
『いえ・・・あの魔方陣はこの山の魔力を少しずつ吸収して発動します。早くて半年、長くて4年程で魔力が貯まると思われます』
「半年から4年か・・・」
『はい。発動時期になったらきっとお迎えに参ります』
「わかった。お願いします」
ドラゴンとの邂逅を終え、山を下る。
下ればすぐにチガヤ王国だ。
「帰るんだな」
「・・・うん」
「・・・・・」
このしんみりがいやだっ!
別れは辛い。
出来ることならイチイも、レンやトマ、ヘレンたちとも勿論別れたくはない。
だからといって、元の世界にいる家族、友達、皆と別れることを選べない。
「帰るよ」
選べるのは片方。