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3年初の月末テストである。
何故かチガヤ言語は解るので問題なしで、他筆記も全く問題なし。
しかも今回から無詠唱可なので、実技も問題なし、補習なしでイチイは上機嫌だ。
剣術のトーナメントは2位。
因みに1位はオースティンだ。
そういう訳で入学して一番の高得点で、堂々首席である。
今までも首席はあったが、2位を此処まで引き離しての1位はアガる。
因みに今回の2位はミカではなく知らない人だった。
今月の売上も、店の客数が増えたこと、ニトロプリア分の自販機も新設したこともあり、金貨が10枚となった。
あと100枚程度で完済である。
月末テストや商会の集計が終わり、少し落ち着く月初。
その招待はやって来た。
「実はわが主が、イチイ殿をお茶会に招待したいと」
「お茶会・・・ですか?」
茶菓子の準備ではなく、お茶会と。
「えぇ。秘密の仮面茶会でございます。何というか、その、バレバレではありますが、仮面をして正体を隠し、お茶会をするのです」
「へぇ・・・」
とはいっても、イチイには誰が誰、ということはわからないのだが。
「主の趣味でございます。元々この店の菓子を気に入っておられましたが、マカロンを、大層気に入られまして・・・それで是非お話をしてみたい、と」
「なるほど~・・・でも・・・貴族なんですよね?私平民なんですけど、大丈夫なんですか?」
「主は気にしないと申しております」
主は、と言っているところが気になるのだが。
でもまぁ。
「面白そう」
新作菓子のリサーチも兼ねて、招待を受けることにした。
城下町で一番大きくて綺麗な別邸で、その茶会は開かれるという。
仮面はヘレンの話を参考に自作。
イメージはオペラ座の怪人のファントムだ。
フォードに茶菓子の半分を注文されていたのでそれと、手土産に飴細工を用意した。
貴族の茶会の手土産は、茶葉やアルコール、布地や花などの観賞物らしい。
なので鑑賞用飴細工の青いバラだ。湿気防止のために空間魔法を掛けた透明の箱にいれてある。
事前にこの茶会では名を伏せ、通り名を使うと聞いていた。
しかし参加者は皆顔見知り、姿形・声で明らかに誰だかわかるので、通り名に愛称を使うのが常なのだそう。
イチイの名は短いので愛称がない。よってヒツジと名乗ることにした。
テーブルの上には盛り沢山の菓子。
イチイの作ったものと違うものが半々で並んでいる。
参加者はそれらを思い思い摘まんでいる。
傍らに茶器を乗せたワゴン、侍女が数人。
カップが空になると空かさず茶が注ぎ足される。
素早い。
「本日のお菓子も美味しゅうございますわ」
「えぇ、本当に。トゥレ様は本当にお目が高いですわ」
トゥレ様というのが、主の通り名らしい。
イチイには貴族の話題がわからないので、とりあえず様子見である。
お家自慢だったり今流行りらしいドレス職人の話だったり。
貴族の名前も碌に知らないイチイにはイマイチだ。
イチイはとりあえず、自分の作ったものではない菓子を口に運ぶ。
取り立てて珍しいものはない。
ただ上質な菓子ではあるので、味は悪くない。
マドレーヌやフィナンシェといったバターケーキ系の焼き菓子とスポンジにクリームとフルーツを添えたもの、ブラックベリーのタルト。
参加者を観察しているとどうやらタルトが人気の様子。
うちの店でもタルトものを増やしてみようか。
「ヒツジ様はお口に合いまして?」
「はい、美味しいです。・・・ところで、皆様はどんなタルトを好まれるのですか?」
「わたくしは、以前頂いたチーズのタルトが好きですわ」
「それは・・・ありがとうございます」
「チーズのタルト!?そんなものが?」
チーズをお菓子に使うのはまだ一般的ではないらしく、知らない参加者もいるようだった。
そこからチーズのお菓子の話になり、タルトの話は流されてしまった。
リサーチ失敗。
「ふふ、さすがヒツジ様。また次回のお茶会もぜひいらしてくださいね?」
どうやらトゥレに気に入られたようである。
こうして一回目のお茶会は何事もなく終了した。