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営業中、イチイは飴細工の練習をしながらスーを見る。
表はトマとロニが見てくれているので、最近は仕込みと仕上げをスーが1人でやっている。
焼成以外は問題なく出来るようになった。
イチイの飴細工も大分上達した。
元の世界ではこうはいかなかっただろう。
熱い飴に色粉を入れて引き伸ばし、形を作る。冷えると固まってしまうので手早く。
この熱い飴が曲者だ。
本当に、熱い。
だからイチイは熱魔法を使い飴の温度を保ちつつ、自分の手に防御魔法を使い練習する。
この方法なら大分難易度が下がる。
なので元の世界に戻ったら飴細工は出来ないだろう。
この分なら冬にツリーも作れそうなので満足だ。
魔道具も割と順調だ。
今は住居の方でレンとミカが取り組んでいる。
課題というわけではないので、レンが加わっても問題ない。
今のところ、電池作成に勤しんでいる。
空間魔法を使いその中に圧縮した魔力を閉じ込める。
言うだけなら簡単なのだが、これが難しい。
奇跡的に一つだけ成功したので、あとはこれが量産出来れば良いのだが、魔力にも底があるので一日にそう何度も挑戦出来ないのが難点だ。
イチイなら魔力に底がないのだが、店の営業もあるので難しい。
この魔力の電池は充電式なので、一度出来てしまえば充電は簡単という代物だ。
それは試作品で立証済みである。
100個作って1個も出来ない計算なので根気がいる。
イチイはスライムでレベル上げする気分に陥った。
「イチイ、フォードさんが来たよ」
「すぐ行く」
よく話す常連さんが来た場合、よっぽど手が離せない仕込み中以外は出るようにしている。
「いらっしゃいませ。こんにちは、フォードさん」
「こんにちは。今日は何がお勧めですか?」
「今日は色取り取りのマカロンを作りました。ただ・・・」
「ただ?」
「マカロンはメレンゲ菓子ですから、貴族の方は好まれないと聞きました」
「そうですね・・・貴族はバターを大量に使った焼き菓子やクリームを好みます」
「美味しいんですけどねぇ、マカロン。それにほら、こうして色取り取りのマカロンってかわいくないですか?」
カカオ・ブラウンは勿論、ラズベリー・ピンク、ピスタチオ・グリーン、オレンジ、ココナッツ・ホワイトなど見た目にも美味しいお菓子だと思う。
特に女性はこういうかわいらしいものが好きだと思うのだ。
籠にレース編みを敷きマカロンを詰めリボンを掛けると一層かわいい。
プレゼントに最適なのではと一つ作ってみたのだ。
「ほう、かわいいですね」
「あとはこちらのリコッタチーズのタルトもお勧めです」
「チーズですか!チーズのお菓子とは珍しい」
「チーズをたくさん頂いたので作ってみました」
レンのおかあさんから送られて来たのだ。
このリコッタチーズのタルトは販売用ではなく、試作品なのだが、フォードさんは特別なので良いのである。勿論試作品とはいえ完成度は十分だ。
「それでは両方頂きます」
「はい、ありがとうございます」
マカロンの籠をひとつ、タルトをホールでと相変わらず大量に購入する。
大家族なのだろうか。
「明後日は休日ですね。それではまた明後日に」
「はい、お待ちしております。お気をつけて」