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3年生で習う言語は、チガヤ王国のものだ。
イチイはチガヤ王国の言葉を聞いたことがない、はずだ。
担当教諭が何を言っているか、わかる。
教本を見れば、読める。
書こうと思えば、何故か書ける。
どういうことだろう。
「何でだと思う?」
夕飯が終わり、お茶を淹れ、レンに訊ねた。
「そもそもイチイは、どこの出身だ?」
「あー・・・」
そこからだった。
イチイは未だに、レンに詳しい話をしていない。
「この世界でないところから?」
「・・・何故疑問形。国はイスフェリアではないのか?」
「日本」
「ニホン?」
「そう。イスフェリアでもチガヤでもなく、日本だよ」
この世界にはない国名。
「どうやって、イスフェリアに?」
「家を出たら、突然?」
「召喚されたのか?」
「そうかもしれない。前に見せた魔方陣、あれがあった」
「・・・・・・」
レンは黙って考えている。
本当に違う世界から召喚されたのか、考えているのだろう。
イチイを信じる信じないではない。
現実にありえるかありえないか、だ。
「魔法使いはいなかった?」
「居なかった。1週間待ったけど、誰も来なかった」
「魔方陣の場所は?」
「ハロンの山の中腹あたりかな。洞窟の中」
「・・・ハロンの山はイスフェリア王国とチガヤ王国の中間だ。魔法使いが両方の言語を使えるのかもしれない」
「・・・帰る、のか?」
「帰れるのならね。・・・帰りたいよ」
「そうか・・・」
帰る手段が見つかったら、帰る。
「わかった。夏にハロンの山で魔方陣を調べよう。そのあと、チガヤ王国へ行く」
夏。
夏に何か、進展するかもしれない。
進展すれば、別れが近い。