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冬期休暇明け。
折角の栗である。
店はシューフェアからマロンフェアに変更した。
ディスプレイはブッシュ・ド・ノエルとメレンゲ菓子のサンタたちを撤去、クロカンブッシュはそのままにいがのついたままの栗を転がした。
栗はあまり一般的な食べ物ではないらしく、珍しいので目を引くのだ。
「こんにちは。良かった、開いてますね」
「こんにちは、フォードさん」
上客基老紳士である。
冬期休暇中休業していたのでひさしぶりである。
「休暇中は営業されないのですか?」
「そうなんです、仕入に行ってまして」
これ、と栗を見せる。
「・・・初めて見ます、何ですか、これは」
「栗っていうんです。ご試食どうぞ」
マロンフェア期間中は、マロングラッセやマロンパイ、マロンムース、モンブランをメニューにしてある。
「サクサクとした生地とほくほくとした食感が良いですね。今日はこれにしましょう」
「ありがとうございます」
「それにしても・・・平日のお昼は営業されないのですか?」
「学校があるのでちょっと・・・」
「学校・・・?」
「えぇ、魔法学校の2年生なんです」
店内ではローブを纏っていないので、一見ではわからないのだ。
「魔法使いなのに、お菓子屋さんですか・・・」
確かに不思議な組み合わせではある。
「魔法を使うと便利なんですよ、菓子作り」
全自動泡立て器がない世界なので魔法を使わないとツライのだ。
他の菓子屋さんはすごいと思う。
「しかし、学生さん・・・そうですか・・・卒業後はどうするのですか?」
「一応、お店一本に搾る予定です。菓子作りに便利な魔道具の開発はしたいですけど」
元の世界に戻るまではそういう道具の開発もしたいのだ。
それを販売すれば家庭でも菓子作りが手軽に出来るし、菓子自体も一般に普及していくのではないだろうか。
「それは良かった。お店がなくなったら困ってしまいます」
「気にいって頂けて何よりです」
「しかし・・・あと2年は平日のお昼は営業していないと・・・それは残念ですね」
「まだ人を雇う余裕がないので・・・」
「他の方も、学生さんで?」
「そうですね、ほぼ学生で、無償で手伝ってくれてるんです」
「なるほど・・・」
先月はフォードさんのおかげで売上良かったし、ニトロプリアの自販機もあるし、このままいけば早めに学費も返せるだろう。
そうすれば正式にスーを雇えるし、他にも人を雇える。
「ではまた明後日に」
「はい、ありがとうございました。お待ちしております」