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クリスマスのディスプレイにして、売上が鰻登りだ。
特にシュークリーム系の売上が上がっている。イートイン専用商品なので飲み物もセットでつける人が多い。
ロニが伯爵の別邸に住む様になり、放課後と休日、店を手伝ってくれている。
それも無償で!なんて良い人なんだ・・・!
最初はあれだけ嫌っていたのに、虫がいい話ではあるが。
伯爵家を継ぐのは長男と、補佐に次男と、三男以下は自分で生計を立てなくてはならず、ロニは目下のところ冒険者として生活するようだ。
貴族なので騎士になる方が良いらしいのだが、自由でいたいらしい。
そんなわけで店はロニとスー、トマ、たまにミカに手伝ってもらいながら営業している。
スーはシューやスポンジ、クッキーやタルトなども作れるようになり、大分上達した。
この調子でいけば卒業後、もしイチイが元の世界に帰ってもやっていけるだろう。
「いらっしゃいませ」
ドアベルが入店を知らせたので声を掛ける。
「お持ち帰りですか、店内でお召し上がりですか?」
「えぇ、実は、あの表のお菓子が欲しいのですが・・・」
「表の?どちらでしょう?」
どうやら苺のデコレーションケーキをご所望らしい。
幸いスーの焼いたスポンジもあるし、クリームも苺もある。問題はない。
「仕上げに少々お時間が掛かりますが、大丈夫ですか?」
「えぇ、昼過ぎに取りに参ります。代金はおいくらでしょう?」
原価・技術料を考えるとおそらく銀貨5枚ってところか。
初めてホールケーキが売れて、ちょっと嬉しい。
貴族のお茶会でもあるのだろうか。
上品そうな老紳士だった。執事かもしれない。
その翌日、また老紳士がやって来た。
「いらっしゃいませ」
「今日も昼過ぎにお菓子をひとつ、お願いしたいのですが」
二日連続なんて、気に入って貰えた証拠だろうか。
「はい。何に致しましょう?」
「昨日のものに見劣りしない、同等のものを・・・お勧めでお願いしたいのです」
「わかりました・・・苦手なものはございますか?」
「特にありません」
さて、何にしようか。
フルーツタルト?チーズケーキ?洋梨のムース?チョコレートケーキ?
結局、クリームを詰めたシューで小振りのクロカンブッシュを作った。
クリームはカスタードやダブルクリーム、カカオ風味など変化をつける。
それから飾り切りしたフルーツで色を足す。
よく店やテレビで見る飴細工で花を作りたかったが、生憎イチイにそこまでの腕はない。要練習だ。
それからこの老紳士は頻繁に来店するようになった。
平日の放課後は焼き菓子を中心に数点買い、休日になると大きなものを買っていく。
ごくたまに、老紳士がお茶をして帰っていくことも。
この上客のおかげで今月の売上は期待出来そうだ。