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いよいよヒツジ菓子店オープンである。
センスがないっていうな。
オープンとは言っても割とひっそりとしたものである。
自販機にチラシは貼っておいたものの、あまり派手なものではないし、この世界は新店だ、じゃあ行ってみよう、という雰囲気はない。
じわじわ客足が増えていく、といった感じで信用第一なのだ。
自販機の熱心な常連さんがちらほら、興味深そうにやって来たり、他店の代表が偵察?に来ていたり。
あとは知り合いがほとんどだ。
まぁそれくらいでないとスタッフはイチイの他にスーとトマとミカだけなので回らなくなる。
テイクアウトのレジはミカに任せ、トマが店内、スーが厨房。イチイは厨房と店内を行ったり来たり。
珍しいお客さんも来た。
「兄上!」
「よ。これ祝い」
「ありがと、ロニ」
籠に入った、ガラス細工のフラワーアレンジメントだ。
「早速盛況してますね。流石イチイ」
「おねぇちゃん、すごーい」
店内にはミレイユやサイモンといった教諭、ヘレンたち、マーサたちもいる。
「軽食もやってるんだな。俺たちも食べて行こう」
ロニとナッティ、ノアは窓際の席に座り、それぞれ注文する。
「ノア、美味しい?」
「うん!とまも、おねぇちゃんも、いっしょにたべよ?」
「うーん、あとでね?」
「えー!」
流石に今は抜けられない状況だ。
3人は城下に泊まるらしいので、夜にまた会う約束を取りつけておく。
ノアもそれで機嫌を直す。
「イチイ!」
「クライスさん」
「開店おめでとう。城下に用事があって、寄ってみたんだ。これ、祝い」
「ありがとう」
無理やり用事作ったくせに、とコヅが呟いたがイチイには聞こえない。
イチイと親しそうに話すクライスに、段々とロニの機嫌が悪くなる。
それに苦笑いを溢すナッティ。
こっそり裏からその様子を見てこちらも不機嫌なレン。
因みにオースティンの視線も突き刺さる。
それらの様子を見て面白い、もっと増えないかなと楽しそうなのはトマである。
誰1人イチイに想いが伝わってないのが面白い。
イチイは恋愛にとことん興味がないらしく、鈍いというよりも考えてないのだ。
今度イチイに誰が一番好みか聞いてみよう。
1人蚊帳の外、面白がるトマだった。