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2回目の休憩で、後方グループが追い付いてきた。
スピード重視ではないのでそれは良い。
「は、まだこんなとこにいんのかよ」
うざ。
Aクラスの侯爵子息で、火魔法を得意とする実技のトップらしい。
ミカを抑えてトップというところが疑問だ。
「お先へどうぞ?」
「ふん、落ちこぼれが。実技が悪いからって筆記で点数稼いでんじゃねぇよ」
いやいや、実技駄目なら筆記で稼がないでどうするんだ。阿呆か。
もしやあれか、頭の弱い子なのか?
「うるさいわね!ほっといて先に行きなさいよ!!」
イチイが言われた筈の言葉にマーサが怒鳴る。
意外すぎる。
感情的なのは知っていたがイチイを庇うような言動をするとは思えなかった。
しかも相手は侯爵家、伯爵家であるマーサの家からすれば格上の存在の筈だ。
「だいたいイチイはもがっ」
イチイはマーサの口を塞ぎ引き寄せた。
「先を急がないと、後方グループに追いつかれますよ。私たちみたいに」
にっこりと笑って先を促す。
冷気が漏れてたよ、と後にトマに指摘を受けたが。
「何故、止めたの」
「相手は侯爵家なんでしょ。マーサが困るのではないかと」
「それは、そうだけど・・・」
「でも怒ってくれてありがとう。嬉しいよ」
途端にマーサの顔が真っ赤になった。
「ちがっ!あ、貴方を馬鹿にするのは私だけで良いの!庇ったわけじゃないんだからっ!」
「わかってますよ」
といいつつもイチイの顔は笑っていて、マーサはますます慌てる。面白い。
そうこうしているうちにまたもや後方グループに追いつかれた。
「あら?ブラックマンじゃないわね」
「ヘレン」
「ということはあのいけ好かない男に会ったのですわね。イチイ、気をつけなさいよ」
「はーい」
良くわからないが、取り敢えず返事をしておく。
それがばれたらしい。
「ブラックマン侯爵子息よ。実技テストでは一応トップってことになってるわ。性格と根性と容姿と頭が悪いの。絡まれると厄介だわ」
魔法実技と家柄と金が取り柄ということですね、わかります。
そしてもう絡まれた後ですが。
「女癖も悪いのよ。・・・まぁイチイは大丈夫だと思うわ」
ヘレン、今、どこ見たよ。
胸?胸か!?
でもささやか過ぎる胸で良かった。
あの男に言い寄られたら滅してしまいそうだし。
「本当に困ったら”師匠”にいえば良いわ。あの方、ブラックマンより上だもの」
師匠っていう言い方はレンのことを知らない人もいるからだろう。
しかし、そうなのか・・・知らなかった。
まぁ普通に考えればそうか。何せお姉さんがヘーリング王国の王妃だもんね。
「わかった。ありがとう」
「じゃあお先に。気をつけてね」
「うん、ヘレンたちも」
長くなってしまった2回目の休憩だったが、気を取り直してイチイたちも森の奥へ進んだ。