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今回のお土産は、珊瑚を使った髪飾りである。
ヘレンにはコーム型、カトレアにはまとめ髪の仕上げに使える簪のような形、メグにはヘアゴム型で、それぞれがいつもしている髪型にあったものにしてみた。
おお、女子っぽい。
女子は基本髪が長く、短いひとは見たことがない。
だからそれが常識で、髪が短いイチイは男に見られたのだ。
そうに違いない。決してささやかすぎる胸のせいではない。
「かわいい!ありがとう、イチイ!ヘーリング王国へ行って来たの?」
「うん。3日間だけだけど、楽しかった!」
「いいわね、私も行ってみたいわ。ただし冬に」
貴族は夏は避暑地へ行くので、ヘーリング王国は冬、人気があるようだ。
夏はチガヤ王国が人気である。
ヘレンからは刺しゅう入りのハンカチ、カトレアからは綺麗な小瓶、メグからはレース編みのコサージュだった。
「これで少しは女らしくなりなさい」
「・・・ハイ」
皆で合わせたようだ。
髪を伸ばせばそれなりに女らしく見えるかもしれないが、それは出来ない相談だ。
ロングが嫌いなわけではないが、慣れないから何となく倦厭してしまうというか。
服も、銅貨一枚で買えるシンプルな動きやすいもののままなので、貴族の女子からしてみればありえないのかもしれない。
せめて白シャツにでもするか。
そしてようやく、レンの弟子で一緒に暮らしていること、ヒツジ商会のことを話した。
実習で無詠唱で雷魔法を使っていたこともあり、何となくそうではないかと思っていたらしい。
レンは有数の光魔法の使い手だ。
「イチイ」
「ケイト」
ケイトに会うのは久しぶりだ。
夏期休暇は勿論、最後の1ヶ月は昼寝場所に行ってないので会うことがなかったのだ。
「これ土産」
「ありがとう。私も、これ」
男子にはもちろん食べ物である。
イチイの中ではヘーリングイコールゼラチン、その繋がりでマシュマロだ。
「炙って食べると美味しいよ」
ケイトからはかわいい紐だ。
「シャツのリボンにしたりバッグにアクセサリーにしてつけるんだと。流行ってるらしくて姉上に絶対それにしろって言われたんだわ」
「へぇ、かわいいね」
少し明るめの青と水色の2色なのでローブにも合わせやすい。
白シャツを買って制服にしちゃうか。
ケイトにもレンの弟子であることやヒツジ商会のことを話す。
これはレンの提案で、無詠唱で雷魔法を使ったことでどうせ注目を浴びるなら、一緒に全部広めてしまえということだ。
親しい人にいずれ違うところから耳に入れるくらいなら、自分で言う方が良いとイチイも賛成した。
とは言っても、君らには別にいう気はなかったんだが。
「イチイ・ディ・プリアレスト」
「はい、何でしょう」
「受け取れ」
オースティンから渡されたのは綺麗な石のついたヘアピンだった。
確かにヘアピンならイチイの髪の長さでも使えるが。
どういうつもりだろう。
ライバル認定から次は友情認定か?
少年漫画っぽいなぁ。
イチイも御返しにマシュマロを渡す。
甘いものは苦手そうだが仕方ない。これしかないのだ。
「良い?これはお土産ではないの。前回たまったま、助けられたから借りを返すの、それだけなんだからね!?」
マーサからはオースティンと同じ石のついたタイピンだった。
何故か話したことのないリンクから紺の細見のネクタイをもらう。
妹に巻き込まれたのか。
それぞれにもマシュマロを渡し、ついでなのでレンの弟子であることやヒツジ商会のことも話す。ヒツジ商会については単なる宣伝のようなものだ。
あとはミレイユやサイモン、クロケッタなど教諭方々に土産を配り、トマたちが店の様子を見に来るのでそこで土産を渡せば終了だ。