59・夜の森
3回目の校外実習がやって来た。
今回はABC各クラス1グループ、計3グループ約12人の大人数演習である。
夜の森を体験するのがテーマのようで、一晩で1グループ、4日に分けての実習となる。
お互いの希望により、Aクラスのグループはトマ・ミカ・スー。
この3人は今回からグループを組むことにしたらしい。
因みにBクラスのグループはイチイの知らない人間だった。
薬学・魔方陣・棒術・体術、どの授業でも見た覚えがない。
覚えてないだけの可能性もあるが。
AもBも人数の都合で3人ずつ、計10人の学年最少人数のグループになってしまった。
夜の森体験の目的は、夜の森を歩くこと、夜のモンスターと対峙すること、交替で仮眠を取ること、である。
そもそも貴族が多いので、ある種の甘えた根性叩き直してやる、ということらしい。
基本お上品なので、野営が出来ない事が多いらしい。中には虫にいちいち悲鳴を上げる生徒もいるとか。虫除け魔法を早々に習得しろと言いたい。
因みに悲鳴を上げそうなヘレン・カトレア・メグは習得済みである。・・・強制的に。
名前を知らないと不便なので、森へ入る前に自己紹介である。
「トーマス・プリアレストです。よろしくお願いします!」
「ミカルエレファンデ・フィオ・リオレサーエルだ。魔法は一通り使える。よろしく頼む」
「スー、です!」
・・・個性が出るよね、自己紹介って。
っていうかスーはそれで良いんだ・・・。
本来なら身分の低い者から名乗るものらしいが、ここは学校だし、今回の担当であるミレイユがAクラスから自己紹介をすると言ったので良いらしい。
「マーサ・ラガッツァです。得意魔法は光魔法です」
Bクラスグループの紅一点、金髪碧眼の小柄な少女だ。
「リンク・ラガッツァ。マーサの兄だ。得意魔法は火」
金髪碧眼の、マーサとよく似た少年だ。背は平均くらいあり、マーサとは大分違う。
「オースティン・バンス。2人とは幼馴染だ。得意魔法は・・・火、かな。今は棒術の授業と取っている、イチイ・ディ・プリアレスト、貴殿の噂はかねがね」
グループ内で一番の上背を誇る、イチイと同じく珍しい黒髪だ。目の色は緑である。
オースティンの目に闘志が宿っている気がする、ライバル宣言か?
棒術の授業で何か言われたのだろうか。
ヘレンがこっそりと耳打ちしてくれた。
どうやら今期棒術の一位らしい。
勘弁してください。
「ヘレン・アルフレシアですわ。得意魔法は、風魔法。弓の扱いも心得ておりますわ」
「カトレア・サードです。得意魔法は水で・・・う~・・・はい、よろしくお願いします」
「メグ・ワイスです。防御魔法が得意です」
カトレアとメグの家名、初めて聞いたかも。
「イチイ・ディ・プリアレスト。野営の経験はあります」
どうせBクラスにこれだから平民は、と思われているので先に申告しておこう。
表向き魔法不得意になっているし、言うこともないし。
自己紹介が終わり、森に入る。
野営地に辿り着く前に食糧を確保し、夕食を取ったあと交替で仮眠を取るのだ。
その後夜が明けてから森を抜ける。
夕暮れから開始ということで、野営地に着くまでに暗くなる。
出来るだけ明るいうちに獲物を探さないといけない。
人数が多いのでぞろぞろと歩き始める。
Bクラスが先頭、続いてC、最後にAと周囲を警戒しながら進む。
戦闘をこなしながらも、食糧を探すことは忘れない。
夕食抜きは嫌だ。
「スー、これ、食べたことある?」
林檎を捥ぎながら尋ねると、スーはふるふると首を振った。
「美味しいよ」
スーはぱぁっと目を輝かせ、林檎を必死に捥いでいく。
「・・・もしかして、その大きな荷物の中身」
「・・・スパイスとか調味料とか?」
えへ。
だって持って来てはいけないものリストに載ってなかったし!
「・・・まぁ良いけどな。うまいものが食べられるのはありがたい」
「ミカ様がそんなこというの、珍しいですね」
「その場合、私もご相伴に与れるのかしら?」
「・・・もちろんです、ミレイユ先生」
教諭だけないってどんななの。
そもそも夕食もポイントに入るんじゃないのだろうか。