55・ヘレンの事情
「で、誰が本命なの?」
「はい?」
ヘレンである。
突然切り出されてはよく意味がわからない。
「いつの間にか大物ばっかり誑し込んで・・・一体誰が本命なのよ!1人くらいわけてくれても良いじゃない!」
「いやいやいや何の話」
ヘレンの愚痴とか願望とか色々入り混じった会話を要約すると、トマ・ミカ・スー・レン・ケイトの誰が本命なのか、残りの誰か一人回せ、という。
「いやいやいや」
違う。違うから。ないない、絶対ない。
というかレンが何故入っている。
「目撃証言は上がってるんだから!」
どうやら学内で頻繁に話している、という話らしい。
家が一緒というのはばれてないようで、一安心だ。
「誰もそういうんじゃないよ、ありえない」
そもそも誰にも女扱いされてないし。
っていうかスーって。子供じゃないか。
高校2年と小学5年か?犯罪だ。
「っていうかヘレン、キャラ壊れてるよ」
「はっ!わたくしとしたことが!」
ここでこほん、咳払いをひとつ。
「気を取り直しまして・・・お恥ずかしい話、わたくし、この年齢で婚約者候補がおりませんの」
「私もいないけど」
「馬鹿にしてるわけではありませんのよ、イチイは平民だからそれが普通なのですわ。しかしわたくしは一応、子爵令嬢なんですの」
そういえばそうでした。
「15にもなって婚約者どころか婚約者候補もいないというのは、滅多にありませんわ。なんていうか、その・・・父の領地は辺境で・・・一人娘ですから、婿を迎え入れたい、そういうわけで中々・・・。条件が厳しいのですわ、少なくとも子爵以上ではないと・・・」
よくわからないけど、大変そうだ。
確かにトマとミカは伯爵子息で2人とも後継ぎではない。
ケイトも確か侯爵だと言っていた。
レンとスーはよく知らない。
「貴族の世界では男性は18、女性は16までに大抵婚約者が決まりますわ。婚約者候補はそれこそ生まれてすぐに複数決められていることが常。それなのにわたくしときたら・・・!」
「まぁ、だからこその魔法学校なのですけど。いずれ宮廷に入り立派な男性をゲットしてみせますわ」
「そういう理由なのか・・・」
「貴族の女性の大半はこういう理由だと思いますわよ?貴族女は打算的でなくては生きていけません。普段は男性のプライドを傷つけないよう馬鹿な女の振りを致しますわ」
わぁ、元の世界の友達と似たようなこと言ってる!
イチイは自分で無理だな、と悟る。
そういう女性を好む男性もいるだろうが、そうではないひともいるだろうから、まぁいずれ元の世界でそういうこともあるかもしれない。イチイは今のところ、恋愛に一切の興味がない。
「というわけで、良い人いたら紹介してくださらない?」
にっこりと笑顔で結論付けて、ヘレンは寮へ帰っていった。
少し話をしただけなのに、何故かとっても疲れた放課後の一コマでした。