ある一日
紙に写した魔方陣を、レンに見せた。
「転移の魔方陣に似ている」
「本当!?」
やはりこの魔方陣が元の世界に帰る路になりそうだ。
「だが・・・うん、少し違うな」
「少し違う?」
「あぁ、右上と左上の外周部分が若干な。僕もそんなに詳しくないからな・・・」
魔方陣の授業の担当教諭に質問に行ったがよくわからず、図書室で調べてみることにした。
だがしかし、魔方陣辞典を見ても載っておらず、結局分かったのは移転魔法の一種、ということだけだった。
「手詰まり、だ」
それでも移転魔法だろうとわかっただけでも収穫だ。
魔方陣の研究をして、いずれ帰る方法を発見したい。
2年になれば魔方陣の授業を選択して、基礎を学ぶ。
それから独学で研究していこう。もし学者の弟子や専門施設があるならそちらに行ってみても良い。
補助魔法の授業は中々有意義だ。
呪文は相変わらずなのだが、初めて聞く補助呪文が楽しい。
ケイトに薦められた本の魔法も合わせて、組み合わせを考えるのが楽しい。
ノートには遊びに使えそうな魔法の組み合わせの羅列。
こんなノート、提出できない。
この学校はノートを取るか取らないかは自由だし、提出もないので関係ないのだが。
そんなわけでイチイのノートは半ば落書き帳である。
補助魔法のうち、今までよく使っていたのは固定魔法・浮遊魔法なのだが、空間魔法も面白そうだ。覚えれば四次元ポケットもつくれそうだし、秘密基地を作ることも出来そうだ。
魔力は∞なので問題ないが、精度の面では自信がないので要練習。
補助魔法の中で空間魔法が一番細かいらしい。
技術的なものは苦手な部類で、レンの方が遙かに優れている。
「ただいまー」
「おかえり」
「珍しい、早いね、レン」
レンは非常勤とはいえ教職についているので、生徒であるイチイより帰りが早いことはあまりない。
「魔方陣、どうだった?」
「わかんなかったよ。クロケッタ教諭も移転魔法の一種だろうってさ」
「そうか」
「気長に調べる」
レンには異世界だとは言っていない。
ただ出身地は遠い世界だとしか言ってないので、気付いているかもしれないし、気付いてないかもしれない。
「今日の夕飯何にしようかなー」
「シチューが食べたい」
「はーい」
鶏肉・じゃがいも・にんじん・玉ねぎを刻み、鍋で順に炒めていく。
炒めたら水を入れ、ローリエを加える。家ではブイヨンを入れてたけど、この世界にはないので割愛。
野菜が柔らかくなるまで待つ。
この間にサラダとバケットの準備。今日はこけもものジャムを添えよう。
それから鍋にお手製のルーとミルクを入れて煮詰め、完成。
「できたよー」
「「いただきます」」
元の世界に帰ったら、こうしてレンとごはんを食べることもなくなってしまうのだ。
レンとも、他の皆とも。決して数多い友達ではないけれど、皆大事な友達だ。
でも、それでも。
イチイは帰る方法を探し続ける。