2・ロハ
川沿いに下り、2日。
大きな池に到着した。
小さな子供が2人、こちらに気付いて走り寄って来た。
「「こんにちは!」」
その言葉に安堵する。
良かった言葉が通じる。異世界トリップにありがちな言語の自動翻訳か?
「・・・こんにちは」
「お姉ちゃんは、冒険者?」
「つよい?つよい?」
金髪碧眼のよく似た顔立ち。男の子と女の子だ。
「冒険者ではないんだけど、此処は初めてなんだ」
「おとまり、する?」
「うち、宿屋なんだ!泊まるならうちにしてよ!」
「はは、いいよ。案内してくれる?」
願ったり叶ったりである。
もう野宿は飽きた。道中集まったコインは結構な量だ。通貨かどうかは謎だけど、モンスターが落とすくらいだし、きっと使えるだろう。
町は全体的に木造だった。
子供たちに手をひかれ、どんどん町の中を進んでいく。
井戸らしきものを中央に広場があり、屋台が少し。いいにおいがする。
宿屋は町の片隅にあった。
4階建てで、一階は宿屋の受付と食堂になっている。賑やかだ。
「リーア、ミィ、おかえり」
「ただいまおかーさん!お客さんだよ!」
「おや」
髪をお団子にした、エプロン姿の中年女性。
「いらっしゃいませ、旅のお方。・・・珍しい服だね、どちらから?」
「この服は自分で作ったんです。とても動きやすいんです、おもしろいでしょう?」
できるだけ、柔らかい口調で言う。ジャージなので既製品だが、こちらの世界にジャージがないならオリジナルというしかない。答えられない質問は流す。
「ここは初めてなんですが、物価は如何程で?此れで何泊出来ますか?」
そう言って銀貨を差し出す。
持っているコインは4種類。金銀銅と穴の開いた銅貨。単純に考えて銀貨は二番目だろう。
このコインが通貨でなければ通貨が違うのですねと誤魔化そう。
「2階の部屋なら朝食付き7日、3階の部屋なら朝食付き4日だよ」
「では2階の部屋で7日、お願いします」
「はいはい。リーア、2階に案内しておあげ」
「はーい!」
「ミィも!」
またも2人に手をひかれ、階段を上がる。
案内された部屋は簡素なベッドと棚のある、こじんまりとした部屋だ。
「おきゃくさん、おなまえなあに?」
首を傾げると金髪のツインテールが揺れ、かわいらしい。
「イチイだよ」
「かわったおなまえ!ミィはミィっていうの。」
「おれ、リーア!ねぇねぇ、この町初めてなんでしょ?案内するから、お菓子買って!!」
リーアとミィが目を輝かせておねだりしてくる。
「いいよ。お買物したいから、お店に連れて行ってくれる?」
「「うん!!」」
2人に手を引かれ、宿屋を始点に一周した。
冒険者向けだという町唯一の武具屋、子供に人気のお菓子がたくさんある食料品屋、日常品が売っている道具屋、屋台などなど。
子供相手に警戒は必要ない。この町について、世界について、子供でも知っている常識を尋ね、仕入れていく。
この世界の一般的な服を数日分、おやつにお菓子、屋台で買い食いなどを楽しんだ。
勿論2人にお菓子を買い、屋台でも串焼きを一緒に食べた。
鶏肉を甘辛く焼いたもので、照り焼きとは違う味だった。この町に醤油はないようだ。残念。
物価は買い物でだいたい把握した。
穴あき銅貨が一番安く、大体のお菓子が1つ1枚で買えた。串焼きは1本2枚。
10枚分が穴の開いてない銅貨で、服は1着1枚くらいだった。
銅貨10枚で銀貨、銀貨50枚で金貨。
この町で金貨はあまり流通していないようだ。
日も暮れてきたので、宿屋に戻る。
夕飯は1階の食堂にしよう。
宿泊者は安価で食べられるという。
メニューは野菜とキノコの入ったトマトスープ、薄く焼いたパンのようなもの、鶏肉のグリル(酸味のあるパジルソース掛け)、マッシュポテトだった。
パンとポテトが主食にあたるらしい。
鶏肉はこの町で育てられていて、一番一般的な肉。ソースに使われているバジル、トマト、ポテトもこの町の名産。
植物は向こうと変わらないようだ。
バジル、トマト、ポテトとくればヨーロッパだな。イタリアとドイツって感じ。
夕食を食べた後、湯浴み場所に案内された。
宿泊者が順番に使うので、使い終わったあと声を掛ける。
そうすると宿の人が清掃して、また次の人に知らせるということだ。
シャワーや浴槽はなく、タライに入れられたお湯を使い、タオルのようなもので体を清めるようだ。
固形の石鹸はあったが、あまりいい香りはせず、泡立ちも良くない。残念。
湯浴みを終え、就寝。
1日目はこうして無事に終了した。