親友の友達
学園前のカフェのそのテーブルでは戦争勃発の危機が訪れていた。
とはいってもお互い激昂することよりも厭味を連発して追い込むタイプなので冷戦である。
トマだけが可哀想なくらいおろおろとしていた。
親友とようやく出来た同じクラスの友達に挟まれて、トマは泣きそうになっていた。
ミカは紹介されるのがイチイと思っていないらしかった。
親友だと言われ、上級生かもしくはBクラスの貴族かと思っていたのだ。
それがCクラスの落ちこぼれ問題児と言われている従者だとは。
ミカには辛うじて敬語を使っているが、トマには全くのタメ口である。
不敬罪もいいところだと、ミカは内心怒り狂っている。トマほど寛容な貴族は存在しない、それがこの世界の常識だ。
イチイはイチイで、トマが良いと言っているのにミカにそこまで介入される謂われはないと、引かない。というか気に食わなければ付き合わなければ良いのだ。
だがミカはトマにイチイと付き合うのは良くないというし、援助を切れとまで言っている。そこまで言われると引けない。
「敬意は払えない上に、落ちこぼれなど、要らないではないか」
不遜な言い方に腹が立つ。
実力はあれど成績にしてみれば落ちこぼれに変わりない。
「イチイは落ちこぼれなんかじゃないよ、」
流石にトマも我慢に限界が来たので言い返す。
「おれが良いって言ってんの、敬意なんか必要ない」
トマは四男で爵位を継ぐこともなく、おそらく田舎でのんびり暮らすことになる。
兄のように頭も良くなく、剣術に長けているわけでもない。
イチイも菓子屋を営むのが目標と出世街道には興味がない。
長い付き合いになるだろうと思っている。
イチイの魔法の腕はおそらく学年一だとトマは思う。
詠唱が出来ないため、実力が発揮されていないだけだ。
だがそれは、イチイに口止めされているので秘密にしておかなければならない。
でもイチイが馬鹿にされるのは嫌だ。
本当は学校中にばらしてしまいたい。
「とにかく」
「お互い不干渉で行きましょう。私はトマの親友であって、貴方の友人ではない。貴方も私の存在は気にしなければ良い」
イチイはそれだけ言うと会計を済ませカフェを出た。
「・・・イチイは、親友なんだ。本当はすごいんだよ・・・」
ミカにそのつぶやきは届いたが、全く理解出来なかった。
トマも、トマの父親のプリアレスト伯爵もあの神秘的な外見に惑わされているのだと、そう思った。