魔法の特訓?
レンは寝起きが悪い。
起きてもしばらくはぼんやりとしているので、イチイはいつも放っておく。
そんなレンが起きてすぐ、開口一番にこう言った。
「さて、そろそろ本格的に魔法を特訓しようか」
特訓って言った。
響き、悪い。
「もう発音は良くならないから諦めよう」
「え!?」
「もう色々飛び越えて無詠唱で良いんじゃない?」
何だか適当だ。
イチイの発音の悪さに痺れを切らしたらしい。申し訳ない。
「要はイメージだよ。ハーブに早く育つよう、祈って、魔力を分け与える感じで」
イチイは鉢植えのハーブを手で包み込み、目を瞑り、祈った。
「ああ、うん、いいんじゃない」
目を開けると。
育っていた。
え、何この簡単な展開は。
「やっぱり発音が悪すぎたんだね。良かったね、初魔法おめでとう。今日の夜はごちそう作ってね。僕ハンバーグ食べたい」
「それただ食べたいだけでしょ!?」
「じゃあ次は水ね、グラスに水を満たしてみて」
「スルーかよ!」
言われるままグラスを包み込み、同じようにイメージする。
「また・・・」
今までの苦労って一体何だったんだろう。
しかし水が出せるとなると荷物が大分軽くなる。素直に嬉しい。
「呪文要らないなら後は自分で出来るでしょ」
「まぁ・・・」
「出て行くのはいつでも良いよ。好きな時に荷物まとめて」
「・・・え?」
そうだった。
イチイは魔法を教えてもらうためにここにいる。
呪文が要らない以上、教えてもらうこともない。
寂しい、と思った。
思ってしまった。
「あーそっかーそうだよね。あ、でも補助魔法教えて貰ってからね!」
「補助魔法もイメージだから、呪文要らないんじゃない?」
「そっか・・・」
レンはあっさりしてる。
1ヶ月くらい一緒に生活してきて、ちょっと家族っぽいなぁって、思っていたのだけれど。
寂しい、な。
一方通行ってツライ。
ひたすら魔法の練習をした。
魔力が尽きるまでやろうと思ったけど、尽きない。
もっと大きな魔法じゃないと尽きないのかな。
それなら龍を出してみようか。
火系魔法は苦手なのかまだ一度も発動していない。
水で龍を出してみよう。
そのまま庭に撒けば水やりになる。
イーシュのように掌を空に向けた。
鍋をふるっていないときのイーシュの遣り方を真似る。
水の龍よ、現れろ。
強く念じる。
掌から龍が生まれる。
大きな龍だ。
そのまま庭の上空へ舞い、霧状に変化し、庭を濡らした。
面白いので風や氷でも龍を作り、一度に何匹もだしてみる。
庭の上空を色んな龍が踊る。
面白い光景だ。
何故火が出ないのか考えてみる。
火を直接触ることがないからだろうか。
火を触るのは怖い。火傷は痛いからだ。
そういう感情のせい?それともイメージがうまく出来てない?
考えてみる。
用途からイメージするっていうのはどうだろう。
蝋燭に、火をつけたい。
種火を出すのではなく、蝋燭に火をつけるのだ。
そうだ、水だって最初はグラスを用意したし。きっとそういうことだ。
「蝋燭に、火を」
ついた。
発音も悪かったけど、イメージの仕方も悪かったのか。
一度つけばあとは簡単だった。
炎の龍は他の龍に追いついて、舞った。