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魔法使いの菓子屋  作者: クドウ
IF恋愛ルート
150/154

クライス編

クライスがイチイ以外と関係しております。

相手は娼婦。略奪愛ではございません。

娼婦相手でも他の女と関係なんてナシだ!って方は閲覧をお控え下さい。














イチイが帰ってきて早5年。

俺は未だに告白出来ないでいた。




いや、イチイが30くらいまで結婚しないって宣言してるからであって決して振られるのが怖いってわけじゃないんだ本当に。

振られたら仕事にかこつけて店に行ったり出来ないだなんてそんなことは考えてないんだ本当に。





とはいえ俺も男である。

心と体は別物だ。

城下町には裏通り、要するに娼館が立ち並ぶ一角があったりもするわけで、まぁ行くわな。

恋人がいなくて行ったことがないヤツなんて早々いない。


特に冒険者だとわざと恋人を作らず娼館に通うヤツだって多い。

冒険者の大半は、常に死の危険が付き纏う。

残される者のことを考えて恋人を作らないというのはよくある話だ。


娼館に通う習慣はなかった。

数年前のある日、客引きしているライネに出会い、そのまま客になった。

ただ珍しい黒髪だったという理由だけで。



そんなわけで俺の隣にはライネが全裸でシーツに包まっている。



「・・・おはよ、早いわね」


「あぁ、目が覚めた。帰るわ」


「はいはい、いつもありがとね。気をつけて、またのお越しを」


「あぁ・・・また来る」


甘い関係なわけではない。

短い遣り取りをして、娼館を後にした。








娼館を出て、はっとした。

黒髪の人物と目が合ったからだ。

今までこんなことはなかったのに、全く運がない。



イチイがふいっと目を逸らして行ってしまう。

軽蔑されたのだろうか。

慌てて追いかける。


「イチイ!」


イチイは目を合わせない。

下方に視線を投げたままだ。

それだけで動揺してしまう。


「あ~・・・おはようございます、クライスさん」


「あの、これは、その・・・」


何か言わなくては。

そう思えば思うほど、言葉が出てこない。


「いえいえ良いんです。男性として当然の欲求かと。・・・ただ気付かなかった振りをさせて欲しかったなと」


「あ・・・す、すまん」


「はは、バツが悪いのは私よりクライスさんなんで良いんですけど」


イチイは女性なのに割り切った考え方をしているようだ。


「大丈夫ですよ、口外なんて致しません」


いつも通りににっこり笑って言い切られると、複雑な気分に陥った。

軽蔑されるよりはマシなはずだと言い聞かせる。


しかし何でこんな道を。

それがわかったのか、イチイが答えを教えてくれた。



「トマが引っ越したんですけど、ここを通ると近道なんですよ」


「家を買ったのか?」


「別宅ですけどね。城下町用の家があった方が便利ですから」


トーマス・プリアレスト男爵は父親のプリアレスト伯爵の別宅を使っていたはずだ。

しかし兄であるロナウド・プリアレストも同じ家を使っている。

婚約者もいることだし、新しい家を用意することにしたのだろう。

婚約者は地方の一人娘なので、後々はそちらに住むことになるだろうから別宅か。

ヒツジ商会の仕事をする上で、確かに別宅は必要かもしれない。



「それじゃ、また」



何も気にした風でなく、イチイは颯爽と歩いて行った。










運が悪いというか、間が悪い?

何だろう、この偶然は。






娼館の外でライネに会うのは初めてだった。

娼館の近くの飲み屋で、まだ早い時間帯。

今から出勤だろうか。


「たまには外で食べようかと思って。一人なの?」


「あぁ」


ライネが隣の席に座った。

さらりと揺れる長い黒髪を、つい目が追ってしまう。

他意はない。



「マスター、エビのフリットとエール」


まずエールがカウンターに置かれた。

ライネはそれを俺のグラスに当ててから飲み始めた。






「あ・・・」


間が悪い。

よりにもよって・・・。



イチイは会釈して、立ち去ろうとした。

こっちは女連れだし、あっちも男連れ。

不思議ではない。



「アラ、黒髪なのね、珍しい」


ライネのその一言にイチイが立ち止まる。


「あ、本当だ。珍しい」


トマだった。


「これも何かの縁ですし、ご一緒しません?」


こうして何故か4人は同じテーブル席につくことになったのである。


「お邪魔してしまって、良いのですか?」


イチイが申し訳なさそうに、ライネに問う。


「ふふ、そんな関係ではないわ」


イチイの視線がライネの胸にある気がする。

一瞬、愛想笑いが消え、無表情になったような気がした。

次に見たときは元に戻っていたので、気のせいだろう。



小1時間程して、明日も朝から仕事だからと、イチイとトマが立ち去った。


「あの子でしょう?」


ライネがにんまりと笑う。


「でも男連れなのね。恋人、って感じではなかったけど」


「同僚だ、同僚」


「ふぅん。でもまずかったんじゃない?女連れ、しかも娼婦よ」



まずかった何も、同じテーブルにと誘ったのはライネなんだが。

ライネが娼婦と名乗ったわけではなかったが、服装を見ればわかる。

加えてここは立地が立地なので、出入りしていれば娼婦かそうでないかくらい見分けがつくだろう。


「どうかな・・・イチイは気にしないと思う」


俺がどこで何をしていようと、イチイが気にすることはない。


「それにこの前商館から出て来たところ、見られてるしな」


「駄目じゃない。女の子はそういうところ潔癖なのよ」


「そうでもなかったぞ?」


「・・・・・・・・・」


「その憐れむような目はやめてくれ」


男として見られてないことくらい自覚済みだ。







「イチイ。持ってきたぞ」


納品予定だった薬草の束だ。

遠方の高レベルポイントの採取を優先的に受けるようにしている。


「いつもありがとうございます」


イチイの笑顔に和む。

つい頭をくしゃくしゃにしてしまう。

イチイは髪に何もつけていないので手触りが良い。

艶出しに油を塗るのが流行っているのだが、あれはダメだ。

手が気持ち悪くなる。



「わ、また・・・。いくら同じ黒髪だからって・・・」


「え?」


「コヅさんに聞きましたよ」


「何、を?」


「出会った時から片思いだって。良い歳なんだから、早く結婚すれば良いのに」


「ん?」


何かおかしくないか?


「あ、でもお金がかかるんでしたっけ。足りないのなら貸しましょうか?」


身請けか。


「いや違うから。コヅの言うことは全部ウソだから気にしないように」


そしてまたイチイの髪をくしゃくしゃと混ぜる。

柔らかいので気持ちが良いのだ。


「またまた・・・」


俺が照れているのだとでも思ったのだろう。

本当に違うんだけど・・・。







数日後、イチイに呼び出された。

よく商談に使っている一室だ。

真剣な表情で何を言われるかと思えば。


「あの、身請けするにはどれくらいの金額が必要ですか?」


何だその質問。

何を考えているんだ。

いやわかるけど。


「いや本当に違うんだ。彼女とは単なる娼婦と客ってだけで」


「でも好きなんでしょう?」


「いや、そういうんではなくて・・・。単に馴染みなだけで」


「その・・・クライスさんにはお世話になってるし、幸せになって欲しい。失礼を承知で言うけど、お金が足りないのなら出すことも出来る」


懇願するように言われて、思わず怯んでしまう。


「あぁ、困ったな・・・本当に違うんだけど・・・」


「コヅさんは嘘を吐いている風ではなかったし、エルマさんも同意していた」


「え~・・・」


コヅが嘘を言うのは十分可能性があると思うんだが、エルマさんまで?

そんな悪ノリするような人じゃなかったんだけどな・・・感化されたのか?


「とにかく・・・出来ることなら何でも協力するから、早く結婚してほしい」


うお、地味にショック。

好きな女に他の女との結婚を勧められるこのシチュエーション。


「はぁ・・・そんなに結婚してほしいんだ・・・」


「はい」


「彼女が同意しないと思うよ」


ライネは好きで娼婦の仕事をやっている。

決してお金に困っているからというわけではないのだ。

本人曰く夢と愛を売っている、と。


「そう・・・なんですか?」


きょとんとした表情で俺を見上げる。


「デートする仲だし、脈ありなのでは?」


「いやあれは偶然会っただけで、デートじゃないよ」


「・・・・・・」


考え込むイチイ。


「どうしよう・・・」


「いや、どうもしなくて良いし。そもそも俺もライネと結婚なんてしたくない」


ライネは嫌だ。

例えイチイに振られてもライネは嫌だ。

彼女の名誉のために詳しくは語らないが絶対嫌だ。


「好きなのに結婚したくない?」


「いや本当に好きじゃないんだって。イチイはそんなに俺とライネが結婚してほしいの?」


「はい。早く吹っ切りたいので」


「え?」


「自分勝手な理由ですけど。すっきりしたい、それだけです」


「え?」


「まぁ巨乳好きのクライスさんには私なんて女にすら見えないでしょうけどね」


笑ってるけど目が笑ってないよ、イチイ。


「イチイ・・・それはイチイが俺のこと好きって言ってるように聞こえる」


「だからそう言ってる」


「・・・マジ?」


「マジです。自分勝手は承知の上。だから早く結婚してほしい」


「えーっと・・・イチイが俺と結婚するってのはどうかな?」


「はい?」 


「俺が好きなのはイチイなので、イチイが俺と結婚してくれれば良いと思うよ」


「はい?・・・な、だって、コヅさんが・・・」


「コヅは俺がイチイを好きって知ってるはずなんだけどな」


何故嘘をついたのかはわからないが。

イチイは少し考えこんで、そして徐々に頬を赤く染めていく。

なんだろう。

何を考えてそうなってんだ。


「あー、はい、わかりました。勘違いですすみません」


「どういうこと?」


「あー・・・コヅさん黒髪のコとは言いましたけど、ライネさんって言わなかったです」


「成程。・・・それで、あの・・・結婚してくれる?」


「・・・はい、私で良ければ」


やばいな、夢かもしれん。

そっと手を伸ばし、イチイの髪に触れる。

相変わらずさらさらしていて気持ち良い。


「隣、良い?」


「・・・はい」


イチイの隣に座る。

必然的に同じソファに座ることになるので、意識すれば密着度が高くなる。

髪を撫で、頬に触れ、項に手を回す。

軽く引き寄せて口付ける。


「ん・・・」


深く口付けると、イチイから吐息が漏れる。

やばいな、興奮する。


「・・・は・・・」


抱きしめてみる。

イイニオイするし、細いし、柔らかいし、気持ちイイ。

脱がせたい。触りたい。舐めたい。味わいたい。気持良くなりたい。気持良くしたい。


首筋に舌を這わせ、服の中に手を差し込む。


「や、ぁッ・・・ちょっ、ちょっと待って!ここ店ですから!!」


あぁそうだった。残念・・・。


「駄目?」


「駄目です!」


それもそうだろう。

いくらここは2人きりでも一階には人がいるわけだし。


「じゃあ場所変えよう」


「・・・仕事中なんですが」


「駄目?」


「駄目です」


「残念・・・今日の夜は会える?」


「はい・・・終わったら部屋に・・・」


「うん、待ってる」


仕事が終わるのは不定期なので、何時になるかわからないのだ。

終わった後色々用意もあるだろうし、迎えに来ない方が良いだろう。


「はい、あの・・・もう、娼館は駄目ですからね!」


言い捨てて走り去って行った。

顔、真っ赤だった。




今日の夜が楽しみだなと1人にやける俺はさぞかし気持ち悪いに違いない。













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