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魔法使いの菓子屋  作者: クドウ
蛇足
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帰還その後

再会、その日の夜に早速トマ主催で”お帰りなさいパーティ”が開かれた。

2年の月日が流れ、城下町にいない人もいて、パーティ参加者は少ない。

イーシュやクライスは現在ニトロプリアにいてすぐには来ることはできなかった。

通信用の魔道具で少し会話をし、いずれ会いに行く約束を交わした。

オースティンやマーサ達、ヘレン達には文を出したので、いずれ帰って来たことが伝わるだろう。


「えへへへへ、お帰りーイチイ!」


「トマ、酔ってるね?それ何回目のおかえりなの」


「だって嬉しい」


そう言ってトマはイチイの腰に抱きついた。

イチイはトマの背中をぽんぽんとあやす。


「ね、2年間、何してたの?」


「えぇと・・・料理と菓子の専門的な学校があって、そこに通ってた」


イチイが帰り着いた元の世界は、こちらで過ごした年月と同じく、5年の歳月が流れていた。

高校1年生だったイチイはもちろん退学。中卒扱いである。

両親には通信制の高校か大検をと薦められたが、イチイは調理師学校に1年、製菓学校に1年通いたいと希望した。中卒でも通えるし、実家から通える学校が滑り込みで受験出来たためである。


「新しい料理も色々覚えて来たからね。お土産もあるよ」


元の世界でも何故か魔法が使えたため、イチイは色々研究した。


その中でも使える、と思ったのが”電力もどき”である。

例えば家電。

コンセントがささってなくても、魔力を電力に変えて動かすことが出来る。

電池も同様、入っていなくても魔力を電力に変えて動かせる。

魔力の電力化が出来るということは、こちらの世界でも家電を使えるということだ。

あまり大きいものは荷物になるので、ワッフルメーカーやたこ焼き器、オーブンレンジ、ノートパソコンなど比較的小さいものを軽量化の魔法を掛け持ち込んだのである。

トマには他に玩具をお土産として持って来た。

トランプなどのカードゲーム、黒鬚危機一髪、ルービックキューブなど割と昔からあるものだ。

トマのおもちゃ開発のヒントになればと思ったのである。


研究は他に”電波”がある。

元の世界でも携帯の電波が入らないところがある。

エレベーターや山奥、地下など。そういうところで電波が入らないか、魔力を使って練習してみたところ、見事習得。

こちらの世界に戻って来てすぐ試してみたのだが、異世界間でも電波は届くように出来た。

これは嬉しい発見だ。

というよりももの凄いチートアイテムゲットである。

携帯とノートパソコンのテレビは見れるし、携帯も使える、ネットも使える。

いつでも元の世界と連絡取り放題。

約束した時は確実ではなかったが、毎日連絡を入れることを条件に、異世界行きの許可をもらった。

兄貴と椿には写メを送る約束もしている。

それにネットがあるということは、調べ物が便利だ。

この世界にはない元の世界の知識がいつでも調べられる。

主にレシピがすごくありがたい。

後はお土産に圧力鍋やピーラー、卸金などのキッチンツール、調味料、スナック菓子など色々買い込んで来てある。



「皆は元気かな?」


「元気だよー!えっとね、ブラックマンとヘレンは結婚して、男の子が生まれたよー」


「へぇー。・・・ヘレンに似ると良いなぁ」


「後は誰も結婚してないかなー」


「そうなんだ。私もだけど、皆適齢期過ぎてるのにね」


結婚適齢期というか、10代後半で結婚する人が多い国である。

イチイは現在22歳。

トマやスーは良いとして、他は大体イチイよりも同年代・年上である。


「うーん・・・忘れられなかったんだろーねー」


「何を?」


「うーん・・・あははははは」


「トマ・・・笑い上戸なんだね・・・」


「王子様!」


「ちょっとまて。まだその呼び方!?」


「お帰りなさい!」


「スー、ただいま。だから呼び方・・・」


「今更何て呼んで良いのか分からなくて」


「イチイで良いと思うんだけど・・・」


「でも、年上だし、師匠だし」


「いや王子様呼びの方がどうかと」


そしてどちらかといえばスーの方が王子様である。

王位継承はしないとはいえ、血筋的に。

まぁ確かにスーよりもイチイの方が6つも年上なので、呼び捨てはし難いかもしれない。


「イチイさん?」


「やっぱり変な感じが・・・そうだ、トマのことはトマって呼んでるんだし、私もイチイで良いんじゃないかな」


「う・・・頑張る」


頑張ることなのだろうか。


「レシピ本、色々持って来たよ。読めないだろうからそのうち翻訳するけど・・・”よくわかるお菓子づくり基礎の基礎”今更基礎って思うかもしてないけど、これ良いんだよねー。あとは飴細工の本とかカカオの細工の本とかもあるからね」


数字や単位はほとんど同じなので、材料名さえ書きこめば意外と使えるかもしれない。




「イチイ、お帰り」


「レン・・・ただいま」


一度この世界を捨て、元の世界を選び、たった2年で戻って来た。

何かちょっとばつが悪い。


「イチイのベッド、そのままだから」


「え?」


「また一緒に暮らすよね。出て行ったりしないよね」


「・・・いいの?」


信じられなくて、茫然とレンを見上げた。

捨ててしまった、自分の居場所。


「良いに決まってるでしょ。・・・・・家族、なんだから」


「っうん!」


感極まって、涙がぽろっと零れる。

しまった・・・見られないように、レンの腰に腕を回す。

レン、イチイ、トマという不思議な光景の出来上がり。

スーが大笑いしてる。もしやスーも笑い上戸?


「何やってるんだ」


呆れたように、ロニが溜息をついた。


「ロニも参加する?」


「しねーよ」


「そういえば、水魔法使えるようになったんだって?」


「あぁ。冒険者ランクもかなり上がったし、一応男爵になったよ」


「そうなんだ!おめでとう!」


ロニは三男なので爵位は継がない。自力で爵位を賜るか、婿入りするか、平民として生きるか。

男爵位を賜ったということは何かしら功績を残したのだろう。


「ふふふふふ、ヒツジ様直伝の果実酒!美味しいですわ~」


真っ赤になったトゥレがくるくると回りながら登場。

傍らにはフォード。


「・・・酔ってますね」


「ふふふ、今日くらいは大目に見て差上げて下さい」


フォードさんが微笑ましそうに、イチイ達酔っ払い集団を見る。


「しかし間に合って良かった。トゥレ様はもうすぐ他国に嫁ぐことが決まっております。あまり会える機会もありますまい」


「他国に?どこの国なんですか?」


「ヘーリング王国の王弟様です」


「・・・ディア、ですか?」


「いいえ、ディア様の兄王ですよ」


ディアは3番目なのか。

4カ国内の王族はよく他国に嫁いだりと繋がりが強い。


「ヒツジ様もそろそろご結婚ですかな?」


「いえいえ、相手がおりませんので」


元の世界だと30過ぎて結婚なんてザラである。

恋愛経験も乏しく結婚願望もないイチイは、今のところ結婚だなんて全く考えていない。

それどころか今のイチイは恋愛のれの字もない状態。

菓子屋と魔道具と、それだけで頭がいっぱいだ。


「はっはっは。ヒツジ様なら引く手数多でしょうに」


「そんなことないですよー」


もてた経験など皆無。

ささやか過ぎる胸がもう少し育てば女扱いされないかな、と思わないこともない。

腕も立ち、身長も高いこともあり、あまり女扱いされた覚えがない。


「あはははは!イチイ、嫁の貰い手なかったら、おれが探してあげるー!」


「あーありがとう?」


「何言ってるの。イチイは俺の嫁になれば良いよ」


「ケイト・・・真顔だけど真っ直ぐ歩けてないよ。酔ってるね?」


「酔ってないよ」


「酔っ払いは皆そう言うんだよ」


「じゃあ酔ってるー!イチイ、今すぐ結婚しよう!」


「酔っ払いとは結婚出来ないなぁ」


「ぶー」


「ぶーって・・・」


ケイトの年齢、22歳。イチイと同じ年の男である。


「邪魔をするな。イチイは俺の家族だ」


「ふん。俺なんか前世から家族なんだからな!」


「はっ、親子だろうが。イチイは俺の嫁で家族なんだ」


いつ決まったんだそれは。

というかぐだぐだしてきたぞ。

酔っ払いが集まればぐだぐだもするだろう。


「この状態で誰がしめるんだろうか・・・」


正気なのはイチイとロニとフォードのみ。


「放っておけばそのうち大人しくなるんじゃないか?」


「それもそうか」


気付いたらフォードがトゥレを回収し消えていて、他のメンバーはソファで団子になって眠っているという状態。

イチイとロニは団子に毛布を掛け、それぞれ違うソファを陣取った。


「明日は二日酔いだな」


「はは、朝ごはんはお粥かな。お店は臨時休業になりそう」


「確かに・・・ふぁ」


「ロニ、お休み」


「ん、おやすみ・・・」


やがてロニの寝息が聞こえ始め、イチイも目を瞑る。

アルコールも入っていることだし、すぐに眠れそうだ。

明日から何をしよう。

楽しみだな・・・。

















無駄に長くてすみません・・・本編2話分以上の長さなのですが途中で切れませんでした。

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