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魔法使いの菓子屋  作者: クドウ
第七章
143/154

141・帰還

朝が来なければ良かったのに。








最後の朝食は、卵サンドとサラダ、スープ。

昼食用にオムライスも作っておく。


「じゃあ、行くね」


レンとはこの家で別れる。

他の人からの見送りもすべて断った。

見送りなんてされると、帰れなくなりそうだったからだ。


「レン、今まで本当にありがとう。全部レンのおかげだよ。・・・レンに幸あらんことを」


レンの手の甲にキスを落とす。


「元気で」


「あぁ、イチイも・・・」


最後の扉を閉める。

最後に見たレンは、泣いていた。




振り切るようにして走る。

城下町から少し離れた開けた場所に、青い鱗のあのドラゴンが迎えに来てくれるのである。

ドラゴンに乗ればあっという間にハロンの山に辿り着ける。



『ご主人様!お迎えに上がりました!!』


「ありがとう・・・ところで」


『何でしょうか??』


「何故ケイトが此処に」


「俺だってこのドラゴンのご主人様だよ?」


「いやそれは知ってるけどね」


「まぁまぁ。戻れるのはイチイだけだし、気にしない気にしない」


これでは見送りを断った意味がないのだが。


『では行きますよー』


イチイは諦めてドラゴンにしがみ付いた。




ハロンの山の頂上に降ろしてもらい、そこから中腹の宝石箱まで下る。


「イチイが泣いてるかなと思って」


「泣かないよ」


「みたいだね。今も昔も強情なところは変わらない」


「・・・記憶ってどれくらいあるの?」


「全部あるよ。ただ自分の記憶って感じはしないけど」


「・・・ごめんね、私、覚えてなくて」


「いいんだ。信じてくれただけで嬉しかったから。物心ついたころから記憶があって、周りから変な眼で見られることもあったけど、まぁそれ以上に色々才能あって良かったよ。・・・黙らせられたし」


「だま・・・」


「それに神教の名前、自分で決められたし」


「ケイト?」


「そう。キャサリン姫の時の愛称で男で使えるのってこれしかなかったから」


ケイトという名前は4カ国では女性の名前だ。

神国の名前は漢字変換出来る名前、しかも男女の名前もそのままといった感じである。

ケイトは圭人や啓人など変換出来るので、神国では男の名前で通っているのだ。


「ついちゃったね・・・懐かしいな」


姫が命を掛けた魔方陣。

愛息子を取り戻すための。


「ごめん、ね・・・」


「何でイチイが謝るの。俺が謝るところだよ」


「帰ることを選んで、ごめん」


「会えただけで充分。巻き込んでごめんね」


「ううん・・・楽しかったよ」


「ありがとう」


「こちらこそ、ありがとう・・・じゃあ、行くね」


「ん」


今は点滅ではなく、発光し続けている魔方陣。

上に立ち、深呼吸。


「元気でね、ケイト」


「イチイも、元気で」


それが合図かのように、魔法陣から強烈な光が放たれる。


「イチイ、また会う日まで」











玄関、だ。

辺りは暗く、肌寒い。


「ただいま・・・」


小さく呟いてみる。


表札には”日辻”。

電気もついているし、引っ越したりはしていないのだろう。

ただあれから何年経ったかもわからない。


深呼吸する。

意を決して、扉を開く。


「ただいま!」




















「あ~・・・イチイまだかな~・・・」


イチイが帰ってしまって、2年以上経った。

トマは暇さえあれば店の事務所でだらだらする。

魔道具やおもちゃの開発で行き詰ったり、疲労が溜まるとこうしてぐだぐだし始めるのだ。


「トマ、またそれ?」


「だって~・・・でもスーは信じないけど、イチイはきっと帰ってくるよ」


「根拠は?」


スーも流石に6年以上イスフェリアにいて、流暢に話せるようになっている。


「ない!敢えて言うならおれが待ってるって言ったから!」


「・・・トマらしい」


「でも本当に帰って来ると思う。だってイチイだよ?」


「そう・・・だね」


しんみりとした空気が流れる。


「・・・・・ん?」


「トマ?」


「今・・・!」


「え?」



トマとスーが慌てて店を飛び出す。

その先にいるのは、勿論。



「おかえり!」
















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