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「開始!」
オースティンの剣に対し、イチイは棍。
オースティンが動く。
お互い魔法防御の魔法を掛けたまま、打ち合う。
お互いがお互いの癖を熟知しているため、中々勝負がつかない。
打つ、払う、突く、避ける、受ける、払う、
距離を取り、補助魔法の中で役に立ちそうなものを重ね掛けする。
棍にスピードとパワーを上乗せし、紫電を纏わせる。
オースティンもそれを見て剣に炎を纏わせる。
剣と棍が鬩ぎ合う。
純粋な剣と棍の勝負なら体力の差もありオースティンが優勢。
しかし魔法の使いようによっては。
イチイの魔力は一般の魔法使い桁知らず、だ。
最初はオースティンが押していた勝負も、イチイが盛り返して来ている。
オースティンがイチイの棍を弾き、距離を取った。
精霊語による詠唱が始まる。
実践であるならば、此処で迷わず攻撃する。
しかしこれは模擬戦だ。
実践に忠実にいくべきなのか、それとも見せ場を作るべきなのか。
詠唱するということは、それなりに威力のある呪文なのだろう。
元々イチイは詠唱が不得手な為、精霊語を使わない。中級レベルまでなら精霊語を理解することは出来るのだが。
まぁ取り敢えず警戒体制で。
どんな魔法が来ても防げるよう、魔法防御を最大限に。
逃走経路も考えつつ。
詠唱が終わり、オーティンの周りに濃い魔力が集まり始める。
詠唱終わりから発動までの時間が長い。
実践に向かない魔法だが、オ-スティンが使うのだ、何か意味があるのだろう。
魔力が炎に変換される。
確かに威力は凄い。しかしそれを容赦なく使うのか、意外だな。
女扱いされていないことに悲しむべきか、腕を認められていることに喜ぶべきか。
イチイは勿論、後者である。
オースティンの炎が大きくうねり、イチイに襲いかかってきた。
波というか、津波というか。
まぁ大技には大技で。
去年より見た目の派手さはないのだが。
イチイはその炎を最近開発したばかりの魔法で、空を飛んで避ける。
空飛ぶ魔法のことはまだ新しい情報で、オースティンも知らなかったようだ。
あまり表情が変わる人ではないのに、驚いていることがわかる。
「あれ・・・?」
この炎、熱を感じない?
「・・・幻術?」
幻術は補助魔法に分類される、難易度の高い魔法だ。
イチイは必要性を感じなかったので覚えていないのだが、これほどのものとは。
これなら確かに隙も生まれそうだ。
オースティンもそれを狙ったのだろうが、空を飛んで逃げたことでそれも勝機とならず。
さて反撃だ。
折角空を飛んだのでそれを活かした魔法にしよう。
そうなると落下する形のものが良い。
まぁ、炎(幻術だけど)を消すなら水だよね。
イメージは雨、豪雨。台風。
この世界に台風はないみたいだが。
水と風魔法を駆使し台風を模倣する。
気を取り直したオースティンと、距離が距離なので魔法勝負となる。
「イチイ殿、覚悟!」
「負けるか!」