134
騎馬の授業は相変わらずオースティンが1位。
イチイも馬の扱いが上達し、3位にまで食い込んだ。
しかし2位のブラックマンとの差は大きい。
突っかかってこなくなった分、イチイの負けず嫌いも発揮されず、関係は悪くないのだが。
魔法が禁止されていなければイチイの1位もあり得るのだが、魔法禁止とあってはそれも難しい。
「最近ブラックマン殿と仲が良いようだが」
「あー・・・うん、まぁ。和解しました?」
ヘレンのことで懐かれたというのが一番合う表現なような気がする。
「そうか・・・」
オースティンの眉間に皺。
オースティンとブラックマンは仲が悪いということはなかった筈だが、何かあったのだろうか。
「?」
貴族同士の色々はイチイにはわからないところだ。
「イチイ殿、今年の剣術大会は・・・」
「ヒツジ商会が忙しいからね、今年は不参加。模擬戦にはもちろん出るよ」
引き継ぎやそのための人材育成など、本当に忙しいのだ。
嘘ではない。決して剣術大会不参加のための嘘ではない。
「そうか・・・残念だが仕方あるまい。模擬戦を楽しみにしておく」
「イチイ!」
「ケイト、お帰り」
「もー参ったよ、夜会だなんだで面倒臭い!」
冬期休暇中から今までずっと、ケイトはお家事情で忙しかったようだ。
やはり侯爵家の人間だと色々あるのだろう。
同じ侯爵家のブラックマンは休暇終了後すぐに登校していたが。
まぁそれぞれなんだろう。
「よしよし」
イチイにごろごろと懐くケイト。
でっかい猫みたいだ。
しかし。
「・・・すごい注目浴びてるんだが」
「気にしなーい」
「私が気にする」
「じゃあ場所変えよ」
手を引かれ、いつもの昼寝場所に移動した。
ハンモックに2人って座り難い。安定が悪いのだ。
「イチイは休みの間何してた?」
「トマの家の草原に色々作って来たよ。ニトロプリアの店の手伝いもしたし、あ、空も飛べるようになった。いつものことだけどミカ様にレポート頼んでる。心の中で会話する魔法も出来たし」
「今度見せてね」
「うん。ケイトも飛んでみる?」
「・・・それはいいや。空はドラゴンに乗れば飛べるし」
「そうだけど・・・ケイトの家ってドラゴンがいるの?」
「家にはいないけど、違う場所にね。青いドラゴンがいるよ」
「へぇ・・・」
「イチイは知らない?青いドラゴン」
「知ってる・・・」
青いドラゴン。青い鱗の、名前のないあのドラゴン。
「そっか、良かった」
ケイトがにっこりと笑う。
深く聞いて良いのか、悪いのか。
「ケイトは・・・」
「愛してる、イチイ」
「ケイト・・・」
「イチイが帰ることを望むなら、俺は邪魔しない。元より望んでこの世界に来たわけじゃないことくらい分かってる」
「せ、かい・・・」
国、ではなく、世界と言う、ケイト。
途中で目に見えて態度の変わったケイト。
「ごめんね、イチイ。全部俺のせいなんだ。俺の我儘」
「ケイト・・・?」
「会いたかった、ただそれだけ。・・・許して、くれる?」
「・・・うん。私はこの世界、好きだよ」
「ありがとう・・・」
元の世界に帰ったら、イチイの存在はどうなっているかわからない。
でも、それでも、イチイにはケイトを憎むことは出来ない。
千年前の記憶なんて、ありはしないけど。