133・イスフェリア城下町
冬期休暇終了。
今日の放課後は新作魔法の話し合いのため、店はスーとエルマにお願いしてある。
「では、飛びます」
何となく宣言して、宙へ浮く。
「まぁごく普通の浮遊魔法なんだけど・・・それだと移動は無理かな」
「そうだな」
「なので重力を軽くしてみて・・・風を起こし乗る、と」
浮遊魔法は本来、重力操作は関係なく、そのまま持ち上げる魔法だ。
なので一定重量を超えたものは浮遊させられないと言われている。
というか魔力消費量が激しくて一般の魔法使いの大半は魔力量が足りないのだ。
「え?」
説明が難しい。トマに伝わってない気がする。
「自分の起こした風以外は跳ね返すように、防御魔法を追加」
「ほう」
「なので重要なのは風魔法かな。コントロールが難しい。方向転換とかスピードとかバランスとかすべて風魔法で調整してるから」
あまり高く飛ぶと怖いのでゆっくりと上昇、くるっと宙を回ってみる。
「魔法をかなり重ね掛けするから魔力を相当使うんだよね」
「だろうな」
「おれ無理ー。2つまでしか重ね掛け出来ない・・・!」
「重力云々は掛けなくても飛べるんだけど・・・たぶん重量を軽くしても良いのかな。風に乗れる重さまで軽く出来れば」
自由に飛びまわるイチイを見て、ミカが呟く。
「後は精霊語化だな・・・レポートは書き進めておこう」
「トマ、浮遊、重力、防御は私が掛けるから風だけ自分でやってみる?」
「やるー!」
トマに魔法を掛ける。
「おおお」
ふよふよと浮かび上がって行くトマ。
「よし」
風起こる。
「ちょちょちょ」
「あー・・・」
どんどん飛ばされていくトマ。
一旦降ろすか。
「難しい!」
「そうなんだよね。かなり練習したもん。重ね掛け無理ならそれを補助する魔道具作れば良いかもね」
「あーそれ良いかも!作ってみる!」
「そちらはトマに任せよう。俺は精霊語化とレポートを担当する」
「お願いします。ミカ様ばっかに頼ってごめんなさい。えーと、次は・・・コレ」
将来のことを考えればミカにとっても有益なのだが、何となく気が引けるのだ。
かといってイチイは勉強しても才能が足りなさすぎる気がする。
そして次は記録用の魔方陣である。
「15秒くらいの短い間なら、いつでも記録して再生出来るように改良出来たよ。まだ転移に直接のせられないんだけどね」
「それでも凄い進歩だよねー!」
「そうだな。これだけでもレポートに出来るだろう」
「で、記録用と切り離して考えたんだけど、転移を改造して声を乗せられるようになりました」
「・・・記録用の研究の意味がなかったと」
「そうなりますね・・・こんなはずじゃなかったんですけど。ただ声の乗せれるようになったのはいいけど、タイムラグが数秒あること、転移の魔方陣と一緒で距離によって魔方陣が違う」
イチイのイメージとしては固定電話だ。これだと転移の魔方陣と同じく量産が難しい。
「そこは今後の課題として・・・レポートを書くには十分だろう。研究所も買い取った後研究を進めるだろうし」
「そうですね。それで、もうひとつ、これの副産物っていうか・・・」
「何だ?」
「えーと、トマ、今から声に出さずに話掛けるから。トマは目を瞑って、聞こう、とだけ思って」
「うん、わかった!」
レンに魔方陣の研究を手伝っていた時に、中々魔方陣が成功せず「繋がれ!」って思ったことが悪かった(?)らしい。
文字通り、繋がってしまったのである。
(トマ、聞こえる?)
「聞こえるけど、今喋ってるの?」
(頭の中(?)でね。だからミカ様には聞こえてないよ。トマも口に出すんじゃなくて念じてみて)
「ん~」
(念じる念じる念じる念じる・・・)
(念じるしか聞こえないし!)
(え、聞こえるの?)
(聞こえる聞こえる)
「・・・そろそろ説明を頼む」
「「あ」」
「対象に繋げれば繋がれた方も自動的に繋げられるみたい。繋げる方が魔力消費が激しい。距離も魔力量によって伸びるかな」
「すごいね!これ楽しい!」
「念じないと繋がらないし聞こえないから、意識すれば思考までは流れないし」
「これはすごいな。これも精霊語化とレポートだな」
「でもこれってイチイならではだよね。無詠唱が基本じゃないと偶然魔法発見とか無理だし」
「確かにな。普通は詠唱から入り無詠唱に移る。中々出来ることではない」
「んじゃ次はおれねー」
トマにはオーブンの温度調節をお願いしていたのである。
「これさ、どうせ温度3つしか使ってないじゃん。だから魔方陣シートを3つ用意して、ここに・・・スライドするっと」
「あーなるほど!」
「へへ、これでおっけー!もし他の温度欲しいならさ、シートを追加すれば良いだけじゃん。オーブン本体とシート別売りにすれば良いかなって」
「すごいトマ!その手があったか!」
「やるな、トマ。これはどうする?レポート化するか?」
「お願い!おれは商品化を進めるね」
ヒツジ商会でも商品は取り扱うが、研究所も研究を進めれば普及も広範囲、早くなるだろう。
最初は貴族だけかもしれないが・・・そのうち一般家庭でも取り入れられるようになると良い。