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少女は過去を語る

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/17

あたしはある田舎の貧乏男爵家に生まれたのよ。

両親は凡庸で俗物、領地には目立った特産品も資産もない。

普段の生活は平民と大して変わりなかった。


弟ができた後、あたしは両親の会話を聞いてしまったんだ。

弟に爵位を継がせるために、あたしを資産のある家へ嫁がせようと。

当時は意味が分からなくて村の人に意味を聞いてみたんだけど、

悲しそうな顔で教えてくれた後はあたしも悲しかった。

子供心に恋への憧れもあったから。


八つの時、あたしは高熱で数日間寝込んだの。

後で知ったんだけど、魔素過多症という珍しい突発性の病で、

体内魔素が激増して全身に異常をきたし、最悪命を落とすみたい。

幸か不幸か一命はとりとめたけど、あたしは加齢が止まった。

そして膨大な体内魔素の保有者になった。

ハイエルフも凌駕するぐらい。


加齢が止まって、嫁げる年齢でも見た目が子供のままになるから、

両親から金持ちの後妻とか愛人として売られる可能性は消えたけど、

安心していたら別の買い手が付いてしまった。


それが神殿だった。

膨大な魔素を活用して神聖魔術を習得させ、神の威光を知らしめる、

とかなんとか…まあつまるところ、治療による資金集めの看板よね。

どこから聞きつけたのか、教国中央大神殿の偉い人達がやってきて、

おそらく法外な価格であたしは売り払われた。弟のために。

変質者に売られる可能性もあったから、まだマシかもね。

ちょっと自慢だけど、あたし結構美少女でしょ?


なんで法外な価格と分かったかって?

その後貧乏男爵だった実家が、風の噂で伯爵になったと聞いたの。

さらに「大聖女生誕の地」として、領地が巡礼地になったんだって。

巡礼者の落とすお金で、ただの田舎がとても潤ったのよ。


そう、大聖女。あたしはそう呼ばれてた。

適性があったみたいで、神聖魔術は高度なものまで身に付いた。

教国中央大神殿はおろか、周辺諸国の神殿を含めても、歴代最速。

治癒や浄化は勿論、四肢再生や視覚再生、呪詛昇華、神聖結界。

伝説扱いの死者蘇生まで取得した。


実は死者蘇生って、各国王族の間では既知の魔術なんだけど、

財力に加えて権力というか、社会への影響力が重要らしくて、

おいそれと行使できない事になってる。何せ準備が大変なんだ。


普通の術者一人では必要な体内魔素が足りなくて、しかも難易度高い。

主となる術者に加えて、体内魔素が多い副術者が何人も必要なの。

おまけに遺体の状態悪かったり、亡くなって時間経ってたりすると、

主術者の負担も増えるし、副術者はさらに人数が必要になる。

それだけ人数集めないといけないから、当然高額なんだ。

一度蘇生術を行使すると、主術者も副術者も二日は寝込むし。


で、そんな神聖魔術を、あたしはたった一人で出来てしまう。

しかも一日に何人も。最高は一日に十八人だったかな。

国際会議の場で大規模な暗殺事件が起こった時。


それだけの人数を蘇生させて、ついでに重軽傷者を数十人快癒、

翌日もいつも通り一般の人達の治癒をやってた。

おかげであたしは大聖女なんて呼ばれるようになっちゃった。


神殿では、実家にいた時みたいに貧乏に悩むこともなかったけど、

大聖女と崇められるようになってから、待遇はさらに良くなった。


食事はおいしい、衣服は毎日のようにきれいなものが支給される、

沐浴も事務も神官見習いが複数ついて手伝ってくれる。

お給金だってものすごく増えた。使う暇はなかったけど。


うれしくなって、さらに秘奥と呼ばれる神聖魔術まで学んだね。

でもそんな時、知っちゃったのよ。


一度袖を通した衣服は二度と同じものがなかったんだけど、

それは全部細かい切れ端にされて「神聖布」として売られてた。

沐浴のあとの水は、小瓶に入れて「守護水」として売られてた。

すごい高値で。良い効果なんてあるか分からないのに。


言わばこちらは聖女の仕事をして対価を受け取っている身だから、

そこは文句は言えない。神官も食事しなきゃならないのは分かる。

お金は生活するためにどんな人にとっても必要だ。


でもあやふやなものに値段をつけて、売りつけるのはおかしい。

それで人々の心に平穏が与えられる?バカ言っちゃいけない。

あたしは大聖女をやめることにした。もう充分働いただろうって。

だいたい気持ち悪いよ。あたしの入った沐浴の水だよ!?

最低限の義務は果たし終えたと思う。


秘奥と呼ばれてたもの、それは神聖魔術の元となった魔術だった。

それを使ってあたしは大勢の目の前で塵になったように見せかけ、

死を偽装した。あれなら誰もあたしの死を疑わないだろうね。

そもそも秘奥までたどり着ける人は今までいなかったんだ。


姿を隠す前に、今まで貯め込んでいたお金はある人物に寄付した。

偽名のその人物は、実はあたし自身。退職金代わりにもらった。


教国から出奔し、こんなへんぴな場所にある小屋に住み着いた。

ここでひっそり暮らしているのは、そんな理由。


大聖女のあたしはいなくなったけど、その後の話は噂に聞いた。

教国中央大神殿には「永遠のあどけなき大聖女」の石像が建って、

男爵領だった伯爵領も未だに熱心な巡礼者が絶えないとか。

いなくなっても金づるになっちゃうんだね。


そんな立派なものじゃないよ、あたし。

自分達の信仰に満足してる人達がいるならそれでいいけどさ。

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