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作者: S T A Y
掲載日:2025/12/01

美とは、何か?


人体か?風景か?神か?


幼少の頃、私は疑問だった。


美術の括り、と評しようか。黄金のような美しさもあれば、欠けた美しさも存在する


完璧が美か?そう言われると、私は否定が出来ない


しかしまた、欠けた醜さが美か?と聞かれても、私は肯定するほかない。


これは私の、美の物語だ。






─────何年でもいいだろう、世界の何処かだ。


「何故だ…なぜこの色が存在しない…!」


絵の具が直ぐ乾燥する時期に、私は絵画に思い悩んでいた


「アクセントが足りない…なんだこのグラデーションは!もういい!」


愚かかな、ヒステリックになり私はその絵画を否定した


「…塗りつぶせ。」


「なんだ貴方は!私の絵を塗りつぶすだと?!」


始めての出会い、後に私が師と仰ぐお人だ。


「紅に染まったら、世界はどうなる?」


「なに?…文学的に言うならば、夕方…時間の経過だが。」


「それもアリだが、君が描いているのは何だね?」


絵だ、遠い理想郷の砂浜…


「死…?」


「そうだ、後は好きに描くんだ、壊してもいい。」


理想郷など、存在しないのは分かっている…未知の次元、想像も着かない…


だからこそ、死を越えた紅の海が広がるのが、理想郷の砂浜…そう師は言いたかったのかも知れない。


「貴方は何者なのだ、どこの画家だ。」


「私は美術家だ。」


感嘆した、あれだけの最適かつ自主的に想像力を働かせられるアドバイスを打てる者が、美術家だと?


「私の家に来るといい、なに、取って食ったりはしない…」


未熟な私は知らぬその人に着いていった、いや、今こう思うとこれが功を成したのかもしれぬが。


「なんだ、これは。」


それは家と言うにはあまりに美しく、巨大なアトリエであった


「私の失敗作だ。」


「なに?それはどういう事なのだ」


私は地下へ案内される、上とは一風変わった、牢獄のような冷たい場所だった


「まだ産み出せていない、私の成功を。」


床に散らばる折られたペンに、血の滲んでいる紙の数々…拷問をされているかのような部屋だ。


「なんなのだ、書かされているのか?」


「いいや、何にも私は強制されていない」


「ではなんなのだ!」


「求める、ただそれだけだ。」


狂っている、そう思った、しかしそれと同時に言い表せようのない感動が私に引かない津波を起こす


「師と、呼ばせてくれないか」


「では、そこで見ていなさい。」


そのまま、狂人とも見える師は机に向かう


空気が変わる。


書き進める音が進軍に聞こえるほど、インクの匂いが脳を刺激してくる


「…師よ」


「静かにッ!」


それは怒号であったが、私に全てを教えてくれた


「ぐッ!」


ペンが、折れた…作家にとっての剣が、盾が…


…止まらない、師は指を折りその血で文を書き続ける


本気なのだ。それに挑む背中は大きい、なんて陳腐な言葉では飾れない


壁か、塔か…そんなイメージを抱いてしまった、越えられないと、思ってしまった


「そこに立っていなさい、私が許します!」


師はその一言で教えてくれた、今は越えれない、だから、後ろで立っていなさいと。


乾いた咳で、師の手が止まる


「私は、負けてしまった、世界に」


「世界?」


「身を焼く病が、私の意思を砕くのだ…」


…嘘だ、あれだけ本気で、貫いた意思が病に負けるだと?許せない…!


「っ何故だ!貴方には書けるはずだ!」


「書きたく、ないのだ。」


師は私と求める美が違った。


「完璧でなければ、いけないのだ…」


「…貴方がそういうのであれば。」


完璧を求め何十年も踠いた師の文は完璧に見えた、しかし本人が納得しなければそれはただの塵。


「旅に出よう、弟子よ。」


とある荒野に行った、しかし私には師の背中の方が大きく見えた


とある最高峰の美術館に行った、しかし私には師匠の観察眼の方が美しいと思った


とある病院に行った、しかし私には死にかけで、息も絶え絶えの師が、美しく見えた。


「貴方は、完璧を作れたか?」


「………………」


答えてはくれない、その質問は美術家にとって余りにも酷だからだ


「私は完璧が嫌いだ、欠けた物にこそ美しさを感じる、何故私を側に置いた。」


「美しさを感じたからだ。」


意図が読めなかった、私が美しい?師は完璧を求めるのでは無いのか?


「美しさを求め、欠けた物にすらそれを感じる君が美しいのだ。」


「私は、そう思わない…」


矛盾だ、未熟で、欠けた物が美しいと感じるというのに、そのもののような私は私が嫌いだ


「君は完璧で、欠けている。」


「意味が分からない。」


「だからだ。」


師は去った。






──────私は、何も出来ない。


残ったのは空虚のみ、熱的死が私の想像力に広がる


文才が私には無いのだ、しかし師はこう言っていた


「文は爆弾だ、強いが、直ぐに消える…しかし文才は核だ、記憶という放射能を残す」


あのお人は、核だ、私に記憶という後遺症を与えた


あのお人は死んだのか?情報が人生の師は私の中で生きているのか?


…そうか、完璧と、醜さ。


私はいつしか完璧を追い求めていた、しかし私は醜い欠けた存在


表裏一体の美しさが、私を至高へと昇らせる


それ含めて全てが、あのお人の目には『美しい』と、見えていたのだ。


畏れた。


私の理想郷は汚く汚れ、澄みきって透明だ。


美とは、そういうものだ。



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