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遠藤ジムでの練習の日々は割愛しよう。本来の本題にはあまり関係しないことだからね。
初めて試合で勝ったこととか。難しい技を成功させたこととかはこれから話すことには何も関係ない。だから割愛する。
でもこれだけは言っておく。
ここでの三年半はすごく楽しかったよ。遠藤さんに怒鳴られながら練習したこととか。
他の同僚たちと切磋琢磨しながら鍛えていったこととか。さっき話した山田さんもすごく面白い人で。
稽古がない日でも飯に連れててってくれたりしたよ。
思い出が詰まってる。かけがえのない思い出が。だからもし聞きたくなったらまた声を掛けておくれよ。
いっぱいに語ってあげるからさ。
でも結論から言うと高校に入学したころに辞めてしまったんだ。辞めてしまったと言うのは間違いかな。辞めさせられてしまった。
破門された。
一つの大切なルールがあったんだ。それは鍛えた技を競技以外で使わないこと。暴力として一般人に振るわないこと。
ただそれだけが絶対の掟だったんだけどね。僕はそれを破ったんだ。
何があったかだって?簡単なことだよ。
同級生の顎を砕いたんだよ。磨き上げた技を使って。それは僕の人生の中でも三本指に入る過ちさ。思い返すのも苦々しいけど是非とも聞いてほしい。懺悔のためにも。