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22 再会

 瑠璃子を眠りから起こした圭一たちは電車を乗り継ぎ遠藤ジムの最寄り駅へと到着した。

時間帯もあり電車を降りてから改札までの間は大勢の学生。

加えてここは東京へ一本で行ける路線の駅の一つ。

ベッドタウンとも揶揄されることもあるが社会人にとっては好都合。

東京よりも安く住むことができ通勤時間も都内郊外に住むよりも安い。


加えて人が集まるところは栄えるものだ。

住宅が建ちスーパーや病院などが建てば飲食店やデパートなども建ち始める。

学生にとって住むにも遊ぶにももってこいの場所となっている。


「あとどのくらいで着くんだ?」


「あの曲がり角を左に曲がって少し歩いたところだ」


相葉は周りの景色に飽きてきたらしい。

辺りを観察するのを辞めて目線よりやや上を見ながら歩いている。

たまに気になる建物を目で追うもすぐに視線を戻す。


「なんでそんなに落ち着きがないんだ?」


「俺はガッカリしてるだけなんだ。どの飯屋もうちの学校の近くにあるやつばかりでさ」


親指で示す先には彼の主張通り見知ったチェーン店が並ぶ。

少し前までは個人経営の店が多く立ち並んでいた。

最近はこの土地に目を付けた大手チェーン店が矢継ぎ早に出店して激戦区へとなっていた。

目に入るだけでラーメン店が3軒見える。


「うーん、ここら辺で美味しいお店だとジムの隣にシャロンってパン屋があったな。ちょっとおしゃれな雰囲気で入りにくいけど」


「え、もしかしてシャロンってお店じゃない?白い看板の。すごく美味しいらしいよ!」


圭一の隣を歩く瑠璃子が目を輝かせながら興味を示す。

聞く話によると若い女性たちの間では名が知れ渡っているらしい。

食パンのような定番はもちろんクロワッサンやデニッシュなどの甘くてパイ生地のものが人気だと力説する。

全部雑誌の受け売りなんですけどね、と付け加える。


「小麦とバターの香りが口の中から溢れ出すほど香ってくるの。特に1番人気のクロワッサンは外はサクサク中はふわふわでーー」


「あ、それは食べたことあるな。焼けたらすぐ売り切れるやつ」


「ずるい!終わったら絶対買いに行くから」


今日の夕飯もしくはおやつが決まったところでバターの香りが漂ってきた。

目的地に近づいたことを圭一は悟った。


遠藤ジム。

デカデカと掲げられた看板を3人は見上げる。

劣化の進むアクリル製の看板は雨風で色が褪せて本来の色を失っている。

長い年月を掛けて新たな入門者を見下ろしてきたことを伺える。


ガラス張りの外壁とドアからは中が僅かに伺えてすでに何人かは練習を始めている。

その中にはコーチと思わしき人物も見受けられた。

2人は横目で圭一を見る。

見られていることに気づかないようで中を見続けている。

知っている誰かを目で追っているのだろう。


相葉が強めに肩を叩く。

反動で一瞬身体が沈む感じがした。


「半ば強引に連れてきたがあえて言っておきたい。

準備ができてないなら引き返してもいいんだぞ」


準備とは心のことである。

無論それは済ませてきたつもりだった。

それでも足が前に進まない。

それを見透かされて助言をされたのだろう。


そんなわけないだろ、さっさと行くぞ。

そんな虚勢を張ろうとするも行動には移せなかった。


「頼む、僕を強引にでも中に連れて行ってくれ。足が動かない」


「甘えるな、俺が引き摺っていったところで何も変わらないだろ」


思わず出てしまった弱音に相葉はピシャリと反論した。


「辛くても苦しくても自分で抱えた問題は自分で解決しなきゃ意味がない。そんなことしたら永遠に動けないだろう、だからーー」


相葉の言葉を遮るように瑠璃子は圭一の手を取る。

それはとても優しくとても温かかった。


「私も相葉先輩と同意見だよ。これは君が自分で解決すべきだと思うから口を出そうとは思わない、でもね」


瑠璃子は手を取りながら入り口へ向かう。


「一緒に行くことならしてあげられる」


だから後でクロワッサン奢ってね。

その時の彼女の意地悪そうな顔は一生忘れられないだろう。


 ◇


入り口を抜けるとツンとした汗の匂いが鼻を通り過ぎる。

すでに湿度が高いこともあり余計に強く感じた。


懐かしいな。

壁のシミ、掛かった賞状、トレーニング器具にヨガマット。

そして中央に置かれたリング。

あの時ここから出て行った頃から何も変わらない。


入ってきた圭一たち気が付き、皆手を止める。

喧騒で響いていたジム内が一瞬で静まり返る。

どうやらその人物が以前在籍していた人物だと認識したのだろう。

その誰もが対応に戸惑っているようであった。


するとリングにいた2人のうちの片割れがグローブを外しながらこちらへと降りてきた。

リングを降りる間も声を上げず静かにやってくる。

それは親の顔よりも見知った顔だった。


「遠藤さん…」


それはこのジムの経営者兼トレーナーの遠藤本人であった。

少し老け込んだだろうか、細かい皺が増えたような気がした。

目を離すことができなかった。


「遠藤さん、すみませんでした…俺は…」


頭が真っ白になる。

来る間ずっと考えていた言葉が全く浮かばなかった。

彼の元気そうな姿と迷惑を掛けてしまった合間が交互に心中を巡り思考をめちゃくちゃにする。


なにか言わなくては。

そう思っていると遠藤は無言のまま手を差し伸べる。

そこにはグローブが握られていた。


「せっかく来たんだ、どれだけ強くなったか見てやる」


「……試合と実践の違い見せてあげますよ」


「なんで破門にしたのか覚えてねえのか馬鹿野郎」


2人は笑い合いながらリングへと向かっていく。

相葉はそれを見届けてから他の門下生へと声を掛けにいく。

そして瑠璃子は何かから解き放たれたであろう圭一の背中を見つめた後、彼の勇姿を見るために追いかけて行ったのだった。

拙い文章ですが読んでいただきありがとうございました。

ここで完結させたいと思います!

感想などあれば気軽に教えていただけると幸いです!!

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