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21 遅れた理由

 瑠璃子は意外そうな顔を作る。

素直に考えを変えられるとは思っていなかった。

自分から言い出しておいてだが正直困惑した気持ちになる。


 一瞬見せた彼の神妙な表情を思い返す。

きっとあの時に何かを感じ取ったのかもしれない。

未だ飲み込めない瑠璃子は圭一に問いかける。


「素直に答えて欲しいんだけど本当にいいの?私はこうすべきとは言ったけど無理強いするつもりはーー」


 言いかけたところで圭一が首を振ったことで言葉を切る。

優しく諭すような仕草。

彼は遮って申し訳ないといった素振りで口を開く。


「説得されたからってわけじゃない。あくまでも自分で考えた答えだよ」


 一呼吸をおく。


「何かしなきゃってずっと思ってたんだ、でもその一歩を今の今まで踏み出せなかった」


「圭一くん……」


「でも瑠璃子の話を聞いてたら傷ついたっていいかなって思えた。なんだか小さい悩みのように思えた。大事なことは他にはあるって」


 瑠璃子を見つめる目にさっきまでの悲しみの感情は写っていない。

代わりに感謝と尊敬の念を讃えているようにまっすぐと彼女を見据える。


 普段目を合わせられると反射的に逸らしてしまう瑠璃子だがなぜだかそのまま見つめ返してしまう。

5秒、10秒と経っても不思議と目を離せない。


「……大事なものってなに?」


 意を決して聞いてみた。

圭一は口を閉じたまま大きく息を吸い込む。


「守りたいって思える人達のこと」


 そこには私も入ってる?とは聞かなかった。

彼が言う人達とは私の想像する数より多いことをしっている。

お人好しの彼に聞くのは野暮というものだ。


 だから微笑むだけに留めた。

わずかな表情の変化に彼が気づいたかは分からない。

それでも喜びを形にしなければ気が済まなかった。


「……なんでそんな嬉しそうな顔をするんだ?」


「え、いや、これは……」


 頬が熱くなるのを感じる。

顔を見られないように即座に背ける。

覆い被さる髪の向こう側で今日1番の笑い声が聞こえた。


 ◇


「誰か連れてくるなら事前に言ってくれよ」


 金曜日の放課後の校門前。

集合して早々相葉は真っ当な愚痴を不満そうに漏らした。

通り過ぎる生徒たちからの視線を背中で感じる。


「すまない、本当は昨日言うつもりだったんだ」


  昨日は相葉が委員会の会議に行くというので放課後は瑠璃子の同行を伝える間もなく早々に別れてしまった。

意外にも相葉は動物飼育委員であった。


 学校中で噂になったことで急な会議が設けられたのだが議題はウサギの脱走について。

校舎の裏には緑化委員が管理する花壇が建屋に沿って設けられている。

そこにはマリーゴールドやチューリップといった花が植えられている他に野菜も育てられている。


 なにを植えるかは各委員の自由となっているため毎年様々なものが植えられていると話題になっている。

なぜそうなったかというと少し前に伝説となった生徒に由来するからだ。


元来緑化委員では花のみを扱っていて種類も季節によって決められたものだけだった。

自由度もなく枯れるたびに植え替えに参加させられることからまさに外れ委員会の代表格。

緑化といいつつ枯れたら抜いて新しい苗を植えるだけでは本来の意味とはかけ慣れているといった声もあがる。


 現状を懸念した当時の委員長は考えた。

緑化委員の意義とはなんだ、他のみんなに協力してもらうにはどうしたらよいか。

元々観葉植物を愛していた彼は悩みに悩んだという。


 彼はいままでの方針とは真反対の路線へと舵を切る。

綺麗で華やかな花ではなく各々好きなものを植えて栽培や育成の楽しさを広めようとしたのだ。


 だが、付いてくれる乗り気のある者はいなかった。

人数合わせで入っている者が大半で面倒なことにリソースを振り分けたいとは思わなかった。

植え替えの日の当日、誰も集まらなかった花壇で1人立ち尽くしていた彼は決意する。


 誰もが立ち寄りたいと思える森をここに作ってやろうと。


 まずウケを狙って3000円で購入したガジュマルを花壇のど真ん中に植えた。

3本の太く伸びた根っこが土の上から半分顔を覗かせる。

この植物は熱帯気候を特に好むが寒さもある程度耐えることができる。

雪も年に一度降るかどうかの気候なので枯れることはないと判断した。


 さらに他のスペースには薬草を植えることにした。


 ハーブなど特に身体に良いものを選びガジュマルを中心に着々と植えていく。

初めは点々と生えていたそれたちは日に日に大きくなっていき地面を覆い隠す。

半年も経つころには校舎の裏に小さな森が出来た。

このことが話題になり緑化委員は注目されるようになる。


 彼の植えた薬草は毎年種が回収されて何世代に渡って子孫を受け継いでいる。

代名詞でもあるガジュマルの木は今もすくすくと育っており今では2メートルにもなる大きさを誇っている。

オープンキャンパスで配られる学校の紹介パンフレットにも名所として紹介されたり、クリスマスにはツリー仕様の飾り付けがなされている。

今やなくてはならない存在となっているのだ。


 さて本来の問題に戻ろう。

ウサギが脱走したのはガジュマルでも伝説の委員長でもない。

ある3年生が植えたキャベツが全ての元凶である。


 ウサギ小屋は花壇の端から3メートルも離れていないところに立っている。

鉄板製で簡易的な建屋だが4×3メートルと広く10羽のウサギたちが伸び伸びと暮らす。


 予算を抑えていることから地面は舗装されておらず土が見えている。

当然壁を掘り起こせば外へと出られてしまう作り。

鉄板の端は30センチ地中に埋まっているため脱走しないだろうという油断が脱走を許してしまった。


 なにがウサギたちに決意をさせたのだろう。

原因はすぐに見つかった。

実というと逃げ出した8羽はすでに捕獲されている。

当日の担当だった委員が脱走に気が付いたのは小屋の中ではなく外。

餌をあげるため向かっている途中に逃げ出したウサギたちを見つけたのだ。

ウサギはある1箇所に留まって動く気配がなかったため捕獲するのは容易だった。


 群がっていたのは大きなキャベツ。

花壇に植えられていた大好物を食べるために脱走を果たしたのである。

その執念天晴れ。


 ウサギは満腹となって食い散らかした葉っぱと自らの排泄物の上で爆睡しておりーー


「その解説いつまで続くんだ?」


 突然スイッチが入り相葉が回想を始めてからおよそ10分が経つ。

辛抱の限界を迎えた圭一はこんな男に反省の念を抱いていたことを後悔していた。


「なんだよ、あと少しでいいところなのに」


「オチが来るのが遅すぎるんだよ。見ろ、瑠璃子のことを!立ったまま寝てるから」


 彼女を指差す。

カバンを両手で腰の前で持ったままの姿勢を維持している。

一見姿勢良く話を聞いているだけのように見える。顔をよく観察すれば両目は閉じられていて開く気配を見せていない。

首も力が入っておらず約10度ほど右へと傾いている。


「すまなかった……その子を起こしたら行こうか」


 申し訳なさを滲ませながらも話を続きを話せなかった名残惜しさをを顔に浮かべていた。

圭一は気付きながら話が再開するのを恐れ敢えてスルーをした。


拙い文章ですが読んでいただきありがとうございました。感想などあれば気軽に教えていただけると幸いです!!

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