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思い出話をする前に自己紹介をしよう。君たちは僕のことを知らないだろうからね。これを機に知って欲しい。
……いま僕の目の前で唐揚げをがっついている瞬くんとの関係を説明するには必要不可欠なことだろうからね。
僕は火野圭一だ。火野圭一。火遊びの火と野原の野で火野。お日様の方の日じゃないから気をつけてね。トラックのメーカーと一緒なんだとよく間違われるんだ。ほら、トントントントンってやつ。
そして下の名前。土を上下に書いて圭と数字の一で圭一だ。どうだい、分かりにくいだろう。分かりやすい例えがあるなら是非教えてね。これからの自己紹介に使わせてもらいたいからさ。
友達からはそのままケーイチって呼ばれてる。昔は苗字と名前を組み合わせたり似ている何かに例えたりした凝ったやつに憧れてたかな。でもいまの愛称はとても気に入ってるよ。シンプルで呼びやすそうだから。
それとね、もう一つ気に入ってることがあってね。
『K1』
自分なりのコードネームがあること。圭一でもない。ケーイチでもない。K1。あの頃は特撮のヒーローみたいだなって思った。社会の平和を密かに守るヒーローK1。彼は今日も戦い続けているのだ、って。
だからある期間を除いては初対面に対してはこう呼んでねって頼んでるくらいだよ。それだけ僕はこのニックネームのことを気に入ってるんだ。
気に入りすぎて中学に上がる頃にキックボクシングを始めた。なんでかって?そりゃ名前が一緒だったから。思春期の男の子なんて単純なんだよ。
テレビで中継をやっててさ。その時はボクシングかと思ってたけど。ボーッと観ていたらCMに入る前にタイトルロゴが浮き上がるのさ。ラウンドを区切るゴングが鳴り響いて。レフリーに間を割り込まれた選手がそれぞれのコーナーに戻る様子を背景にして。デカデカと浮かび上がるのさ。グワーッて。
共通点を見つけると感動するのさ。シンパシーってやつなのかな。運命なのかと思った。家族団欒で食卓を囲みながらテレビを見ていたからさ。(ちなみにその日の夕食は味噌風味の野菜炒めだった。それは覚えている。)言ってやったさ。
「これ、やってみたい」
……男の子なんて単純なんだよ。