18 苛立ち
今度ジムの場所教えるから見に行ってみなよ。
この一言に瑠璃子は少しムッとした気分になった。
それは一瞬のことだったので感情を口に出すことは躊躇った。
火野のことだから突き放す意図はなかったのだろう。
そのジムに思い入れがあることが感じられる節からなんらかの理由で避けているのだろうと思い至る。
自主的に避けてるの?
それとも出禁になったとか?
考えても所詮想像は想像の内でしかない。
だから瑠璃子は自分から切り出すことにする。
真実は自分から求めていかないと手に入らない。
この考え方は昔から変わらないからこそ気になることは徹底的に調べてみたくなる性分であった。
「その言い方、まるで自分は行きたくないって感じだね」
冷静に努めたつもりだったが棘のある言い方になってしまった。
やってしまった、落ち着く前に口に出したことを瑠璃子は後悔する。
圭一を傷付けただろう確信を持ちつつ目線だけ向けてみる。
だが予想に反して怒っている様子はなく、ただただ落ち込んでいるだけのようだった。
思い当たる節があるのか下を向きながら心ここにあらずといった感じで瑠璃子に見られていることに気が付いていない。
「うん、一条の言う通り僕はあの場所を避けてるんだ。破門されているから」
「破門されたの?なんで?」
「問題を起こした門下生がいると評判が下がる。ただそれだけだよ」
下を向きながら細々と圭一は質問に答えた。
落ち込んでいるというよりあまり多くを語りたくないと言ったように。
やはり破門が原因だったのかと瑠璃子は思ったが何かが引っかかった。
それだけが原因ならもっとジムの悪口の1つでも言ってもいいはずだ。
それをしないということは後ろめたい気持ちがあるということ。
でなければ評判が悪くなるからといって諦めていいものだとは思わない。
瑠璃子は確信するも一つ気がかりになったことがある。
暴力沙汰を校内で起こしたからといってそこまで厳しい処置を下すものだろうか?
いくら正当防衛を口実にカツアゲの加害者を病院送りにしたとはいえ少々厳しいものだと感じる。
何か引っかかる気がした。
しかし想像の範囲を出ないものを容易に結論付けてはいけない。
まずは情報集めだ。
瑠璃子は頭を切り替えることにした。
◇
それから圭一は時間から今までの出来事を思い出しながら順を追って説明をした。
平山を風評から遠ざけるために絶縁したこと。
プライドを傷つけられたと思い込んだ江田の仲間に日々狙われていたこと。
その中で相葉と出会い、拳を交わしてギリギリ勝利を収めたこと。
彼が協力してくれたおかげで江田たちの報復に終止符が打たれたこと。
話しながらその時の悲しみや嬉しさを思い出しながら話していった。
主観的かつ、一つ一つを要所要所分けながらの説明だったので分かりにくかったのかもしれない。
瑠璃子は圭一が話している間は時折相槌を出して聞き手に徹してくれた。
その最中には小さな質問こそすれど基本口を挟むことがなかった。
噂話を聞くのが好きなだけあって相手の話を聞くことに長けているのだろう。
話していてとても楽に感じた。
おかげで話すことに集中することができたので詰まることなく最後まで話し終えることができた。
ふと腕時計を見てみる。
腕に巻きつけられたカシオのデジタル時計は約10分しか経っていないことを告げていた。
時計には興味があったが高価なものは高校生には手が届かなかった。
しっかりしたアナログ時計は将来の自分に任せることにして使い勝手のよいコスパ重視のものを着用している。
たった10分。
こうして口に出して話してみるとなんだか短いものなんだな、と圭一は感じた。
当時はその時々の出来事で頭一杯だったからだろうか。
永遠にも感じる苦悩とプレッシャーを常に感じていた。
いざそうでもないという現実を突きつけられると呆気ないものである。
モヤモヤした気分を拭おうと頭の中を整理しようとする。
すると先程話していたことを不意に思い出した。
「さっき遠藤ジムには行きたくないって言ったよね。実は相葉にも同じこと言われてさ、週末一緒に行きたいって言われてるんだ」
「断るつもりなんでしょ?」
瑠璃子は圭一が何を思わんとしていることを先に答えた。
こちらの気持ちなぞ見透かされている気持ちにされる。
「だからこそ第三者である君の意見を聞かせて欲しいんだ。行ったほうがいいのかどうかを」
「そういうのは自分で決めたほうがいいと思うよ。……でも」
瑠璃子は一度言葉を切って間を開けたあとに続けた。
「少し私の意見を話してもいいかな?」




