15 噛み違い
2025.11.6
2エピソードを結合しました。
圭一はさりげなく瑠璃子を奥の席へとエスコートしていた。
当の本人は座ってからそのことに気が付いた。
これは相当慣れているのでは、と女性向けの店に入っても戸惑いもしない様子も合わさって疑念が膨らむ。
そんな疑惑をかけられていることも梅雨知らず、圭一は口を開く。
「いまさらだけどさ、僕とこんなことしてていいの?」
「え、大丈夫だよ!?私は彼氏とかいないし」
「え?」
「……え?」
2人とも会話が噛み合わず口をぽかんと空いたままになる。
どこで何を間違えているのか見当が付かない。
別に圭一といてもやましいことなぞないはずでは、瑠璃子は圭一の間違いを疑う。
だが彼氏彼女を彼は気にしていないのでは他の理由かもと思考を広げた途端すぐに間違いに気がついた。
「もしかして火野くんがみんなから避けられているからってとだった?」
「うん、そのつもりで聞いたんだけど彼氏いないってどういう?」
「待って!なしなし、いまのは無しだから」
不思議がる圭一を置いて首と右手を左右に振りながら自分の発言を否定した。
必死すぎて首が取れてしまうんじゃないかというくらい振られている。
そのせいで圭一の目が細まり疑念が抱いたことを露骨に出していたことに気が付けかなかった。
◇
「女の子かカップルしかいないお店だったからそっちを心配しているかと思ったのよ」
気を取り直した瑠璃子はことの経緯を運ばれてきたコーヒーを飲みながら説明した。
ブラックは胃が渋々するのがあまり好きでないため砂糖とミルクを入れている。
ちなみに砂糖はスティック2本分である。
「そういうことだったんだ。さっき会った時から距離感が変わらなかったし本当に気にしてなかったんだね」
圭一も同じくカップに口を近づける。彼女とは逆に甘いものが苦手なのでブラックで飲むことにしている。
試合前の減量で糖質を意識することが多かったのでいつの間にか口にするのに身体が受け付けなくなってしまっていた。
最近はなんとかシュークリームやジャムなど甘いものを甘いと思えば普通に食べれる。
だが料理などメインの味に甘みが感じてしまうと無意識に糖質に反応してしまい食欲が薄れてしまうのだ。
「誤解させてごめんね、しかもなんか誘ってるみたいなっちゃったし……」
言い終えてから、別にお前を誘ってたわけじゃないと解釈できることに気がつく。
これは失礼すぎると謝ろうとする。
「そんなこと気にしなくて大丈夫だよ、むしろ一条に彼氏がいないことに驚いたよ」
瑠璃子は不意に笑ってしまった。
無関心すぎる彼の態度と変わらずに茶化す感じが去年と変わっていなかったことに。
なんだか楽しいな、と瑠璃子は思った。
◇
「全然問題ないでしょ、だってそれは噂通りだとしても私は元々火野くんのこと知ってるから全く気にならないな」
仲良くしてることを外野に指摘れる言われはない、と付け答えて瑠璃子は答える。
さきほどの僕と一緒に話してると風評を受けるんじゃないかと圭一が懸念してたことへの答えだ。
彼の噂はいまでもよく流れる。
最初はキレた陰キャが陽キャに勝ったなんて言われて話題性があった。
しかし最近の噂で聞く印象はヤンキーそのものだ。
上級生数人をまとめてやっつけたり、喧嘩の強い人とつるみ始めたりこういう話しか聞かなくなった。
周囲の印象は大人しかった生徒から校内の危険人物へとシフトした。
圭一たちの学校は元々喧嘩が多いわけではないので昭和の学生ドラマで見るような派閥争いや抗争はない。
グループではなく個人で目立つ生徒がちらほらいるほどだった。
「火野くんはうちの学校でどのくらい有名か知ってる?」
「1年以外は噂が流れてるのは知ってるけどどのくらいかまでは気にしたことないよ」
「範囲でいうとその認識合っているかも。下級生の子いじめたりしてないからそっちは話が広まってないんだと思う」
やけに詳しいな、と圭一は思ったが元々噂話が好きなやつだったことを思い出していた。
平山がカツアゲに合っていたときにすぐに見つけることができたのは彼女からこの手の話を日頃よく聞いていたからだ。
噂というのは怖いものだ。
いくつもの噂が1人の耳に入りまとまったものがまた他の者へと伝わる。
それが幾度と繰り返されることで話の信憑性が深まっていく。
少しの確実な情報さえあれば場所や時間、狙われる傾向などはすぐに広まる。
情報は時として武器になる。
「1年を除けば1.2を争う知名度だよ、おめでとう人気者」
「全然嬉しくないんだけど」
「頻繁に流れてくる人は火野くん含めて5人だね。」
瑠璃子は手をぐーの形にして火野に向けた。
殴られるのかと思った火野は一瞬強張る。
まずは1人目、人差し指輪立てて『1』を作る。
「君だね、火野圭一。目立たない男子が突然同級生を病院送りにして報復リンチに会うも漏れなく返り討ちにする。」
人差し指を上げたまま反対の手でカップを掴みコーヒーに口をつける。
「未だ負けた話を聞かないから『不敗の火野』ってあだ名付いてるよ」
「まさか!」
2人して爆笑をしたのだった。




