13 思い出の場所
2025.11.6
2エピソードを結合しました。
「ところで圭一、お前は自分のジムには行っていないのか?」
相変わらず涼しそうな顔しながら相葉は疑問を口にした。
いままで一緒にトレーニングするときは彼のジムであったからこの質問も遠からず聞くものだっただろう。
圭一が問題を起こしたことを知っていても破門されたことまでは知られていなかったのだろう。
嘘を付く必要はないと判断し、正直に説明することにした。
「僕が江田と喧嘩したのは知ってるだろ?」
「一方的に殴ったの間違いだけどな」
「うちのジムはここよりも新しくて小さいところだから悪い評判はできるだけ抑えときたいんだろうね。言い方は悪いだろうけど元々問題児ばかりのジムだったらわざわざ破門させる理由はなかったかもね」
タラレバの話をしたらキリがないだろうがそう考えてしまうことがある。
まだあそこで続けていたら今とは違う未来になっていただろうと願望を抱いていた。
「まぁそうだろうな。ジムも結局は商売の一部だしそれはしょうがないわな」
相葉は床を見つめながら肯定した。
経営者側の意見も考え方も取り入れつつ答えていた。
長く続けていることで趣味としての視点だけでなく、経営者側の考え方も自然と身についていた。
同時に、経験はなくともこの問題が経営に直結することも頭では理解はできている。
「それはそれとしてだ、お前はどうしたいんだ?」
「戻るか戻らないかってこと?」
「昔の師匠や先輩に会いたくないのかって話」
自分の中の意外な盲点に気が付き、胸の鼓動が一際跳ねたような気がした。
◇
「じゃ、今週の金曜日の放課後、早速行こうぜ」
ジムのトレーニングで汗を流し終えた後、相葉は別れ際にそう言って去っていった。
ジムの入り口で残された圭一は幅広の背中が曲がり角まで行くのを見送ってから反対方向へと歩き出す。
遠藤ジムか。
圭一は先ほどの話を思い返して嘆いた。
破門になって一年ほどがもう経つが未だに顔を出すのが怖いと感じることがある。
問題を起こした自分のことをよく思う連中はいないと思うし、風評被害を恐れるものもいるだろう。
そんな者たちがいるなかで僕はどんな顔をして会いに行けばいいのだろうか。
それだけが圭一の心配なことだった。
そう考えているうちに駅に着いた。
平日の夕方ともあって部活終わりの学生と仕事帰りの会社人で少し混み合っていた。
数段の階段を登り改札へと向かうとちょうどやってきた電車から降りる人の波に逆行してしまった。
間を縫って入り口専用の改札へむかえば済むのだが、それを躊躇った圭一は辺りをみまわす。
傍の方に自動販売機があるのが人混みを超えて確認できる。
ジュースでも飲んで一休みしてから帰ろうと決心し、そちらへと向かう。
人が多いとはいえ、突っ切るには苦労せずに到着して何を飲むのか決めるためにラインナップを見た。
定番のスポドリ、炭酸、柑橘系、コーヒーなど左上から順に見ていき最終的にスポドリかコーヒーに絞った。
「あれ、火野じゃん。久しぶり!」
どちらかに決めようとしたときに横から女性の声がした。振り向くとこちらをやや下から見上げる一条瑠璃子の姿があった。




