12 圭一の噂
2025.11.6
2エピソードを結合しました。
「ねえねえ、最近物騒な噂流れてるの知ってる?」
「え、どんな?」
昼休み中の教室で女子高生2人が弁当を食べながら話している。
2人とも自前のお弁当でどれもバランスのいいおかずが入っている。
お手製の卵焼きを箸で切り分けながら櫻田茜は話を続けた。
「うちの学年に火野って男の子いるでしょ?去年同級生を病院送りにした」
「去年一緒のクラスだったよ。大人しい男子だったから驚いたよ。あの時すごい大騒ぎになったんだから」
一条瑠璃子は当時の衝撃を思い出す。
火野は隣の席同士だったので話す機会はちょいちょいあった。
あまり多く語るタイプではなく他の男子と同じように騒いでることもなかったので大人しいという印象だった。
陰キャというわけでもなく物腰が柔らかいというのだろうか。
一条自身として異性からみるととても接しやすい部類であったため暴行事件を起こしたというのは少なからずショックを感じていた。
「でね、その後も敵討ちにきた先輩を返り討ちにしたり、その先輩を傘下に入れたりいまやこの学校の番長になっているんだって」
「え……さすがに盛られすぎでしょ!」
一条は火野の大出世に笑いを堪えられず吹き出しそうになってしまう。
あの火野くんがそんなことできるわけないと思っていた。
無論これらの出来事は事実であるのだが今の彼女に知る由はなかった。
「でも面白いことになってるみたいね。今度ちょっかいだしてみようかしら」
◇
蛍光灯に照らされた室内。
リングの横で圭一はサンドバッグを相手に汗を流す。
先程まで張り付く程度だった汗は滝のように流れていき顎の下で雫となって落ちていく。
サンドバッグを叩く度に乾いた音が道場に響く。
圭一とは対照的に涼しげな顔でベンチに座りながら相葉は関心していた。
仏頂顔は変わらずだがどこか緩んでいるようにも見える。
圭一たちはいま相葉の通っているジムを訪れている。
いまとなっては共にトレーニングをする間柄となっている。
2人が知り合うキッカケとなった時間から1ヶ月が経とうとしていた。お互いの技量を認めあったことで顔を合わせると立ち話をしていた。
するとボクシングの話題になっていき徐々に交流を深めていくこととなっていた。
もちろん江田やその先輩達からは嫌がらせなどを受けることもなかったがこの度の一件は圭一の噂をさらに悪い方に持っていくこととなった。
大体は先輩数人を1人で相手にしたとかその中でも対等な相手がいなかった相葉と仲が良くなったとか事実のものが多い。
八つ当たりで先輩をボコしてる、相葉は脅されて付き合わされている、我が校の裏を牛耳ろうとしているなどかけ離れた噂もチラホラ聞くようになった。
だが良くも悪くもこの悪い方の噂は圭一にとっていい方に働いた。というのもいままで恐れつつも厄介者と叫んでいた連中が静かになったのだ。
大きな理由は学校中でも有名人である相葉を下したからだ。
いままで手をつけられなかった人物を返り討ちにしたうえにこうしてプライベートを過ごす仲になっている。
周囲から見たら実力が認められたことに加えて戦力に相葉が加わったと見ても誤りはないだろう。
◇
軽やかな音は周りで自己練に励んでいた選手すら様子を観にくるほどであった。
実際にこの数十分で半数ほどがこちらに足を運んでいた。
「やっぱ鍛え方がしっかりしてるわ、圭一」
「それなりに練習はしてたからね。でもキックボクシングと違うからまだ身体が慣れないな」
「いやいや、十分上出来。転向した人でも出来ない人はそれなりにいるぜ」
「そういうものなのか」
他のジムの事情はあまり聞いたことがなかったので素直に納得した。
圭一のジムでは転向者がいなかったのでこういう話を聞けるのはとても貴重だった。




