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11 もう一つの理由

2025.11.6

2エピソードを結合しました。

「もうひとつの理由っていうのは何なんだ?」


 圭一は改めて疑問を投げかけた。


「お前に興味が湧いたんだ」


「僕に?」


「お前は強かった。けど、そこまで腕を磨いてるやつは喧嘩なんてしない。暴力沙汰起こしたら最近のジムじゃすぐ破門されるからな」


 相葉は顎をさすりながら続ける。


「お前の動きは真面目にやってきたやつのそれだ。喧嘩用じゃなく競技として。まさかすでに破門されているのか?」


「あんた何も知らないのか?」


 こいつは何も知らずにその原因となった敵討ちに参加しに来ていたのか。


 それも圭一の時間は学校中でも有名な話のはず。

知らないとなるとコイツは疎いのか気にしていないのかどちらかだろう。


 圭一は説明した。小学5年からキックボクシングを習っていたこと。

友人がカツアゲにあってそこで椅子になっているやつの友人に手を挙げたこと。

それがきっかけでジムを破門にされたことを。


 相葉は時折相槌を打ちつつも口出しをせず真剣に話を聞いていた。


「そういうことだったのか、なんか俺が聞いてたのと話が違うな。お前が江田のことを夜中に突然襲ったとか言ってたぞ」


「そんなことになってるのか。噂ってアテにならないな」


 圭一は苦笑いしながら続ける。


「そんなとこにあんたみたいな上級者がきたから焦ったんだ。本気で怒りを買ったんだなって。でも誤解は解けてよかったよ」


「ああ、話を聞けてよかったよ。けど余計に手出しをしたくなった」


「手出し?」


「俺のダチがそんなことしてたのは後味が悪いからな。ちいと後始末させて欲しいんだ」


「いや、知らなかったんならしょうがないだろ」


「このくらいやらせてくれ。せめてコイツらがお前に手を出さないようにしてやる」


 相葉は立ち上がり椅子となっていた友人を持ち上げた。


 ◇


 江田は苛立っていた。

誰もいない廃倉庫で地面に腰掛けながら、顎の骨を折った圭一に心底腹が立っていた。


 顎をさする。

頭のてっぺんから顎の下までグルグルに巻かれた包帯が顎を完全に固定している。

おかげで不意に動いて痛むといった事故はないが日常生活には不便が多かった。


 ものを噛むことができので食事は流動食ごメインであるし、話すこともやっとなのでダチとの談笑にも混ざりにくくなった。


 それと江田が個人的に腹が立っていることは包帯が目立つということだ。

顔の側面は完全に包帯で覆われているので怪我をしたのが一目瞭然だ。


 知らないやつにジロジロ見られるのはまだいいと思っている。

だが怪我のことを知らない知人がいると厄介なのだ。

なぜならなぜ怪我をしたのか聞いてくるので自らの口で説明しないといけないのだ。


 カツアゲしました。

相手の同級生が助けに来ました。

返り討ちに会いました。


 滑稽以外の何者でもない。

事実、それを聞いた人間は決まってバツが悪い顔をして別の話題に入ろうとした。


 だからこうして放課後になると1人で誰も使っていない建物に侵入して時間を潰しているというわけである。


 カツン、カツン。


 不意に足音が聞こえた。

ここは人混みの少ない場所だから油断していたが人の出入りがあったのかと江田は用心した。


 カツン、カツン、カツン。


 足音が近づいてくる。

音が重なって聞こえる。

1人だと思っていたがどうやら2人で近付いてきているらしい。


 カツン、ズルッ。カツン、ズルッ。カツン、ズルッ。


 やがて足音とは別に何かを引き摺る音も加えて聞こえてくる。

一歩歩くごとに地面の砂利を巻き込みながら引っ張られているようだ。

相当重いものなのだろう、引き摺る時間が妙に長い。


 しばらく時間が経つと随分近くまで音がやってきた。

江田がある壁とは反対側の壁にある入り口におそらく音の主がいる。

江田と入り口まで50mもない。


 もしものことを想定して江田は身構えた。


 誰だ!出てこい!


 そう威嚇したいが顎を開けられないので大きな声を出すことは叶わなかった。

内心歯軋りをしながら大人しく来訪者を無言で待った。


 そして、そこから顔を出したのは怪我をさせた張本人圭一だった。


 どういうつもりなのか。

突然やってきた圭一に江田は困惑を隠さなかった。


 あの事件以降彼らは話していない。

江田は一番重傷を負っている以上謝りにいくのはしゃくだったし、圭一も友人を傷つけた彼に謝る義理もなかった。


 和解はしていないが、敵対はしていない。

これが現状の2人の奇妙な関係だった。

だがその均衡がいま破れようとしていた。


 圭一は江田の顔を見る。

その表情はどうやら江田がここにいることを知ってきていたようで驚きなどの感情は読み取れなかった。


 圭一に続いてもう1人、相葉が入り口から入ってきた。

この人は知っている。

よくつるんでいる先輩の友人でここらでは一、二を争う腕っぷしを持つ相葉先輩だ。


 度々先輩と共に顔を合わせた覚えがあったが、直接話をしたことはない。

それに圭一と相葉さんが一緒にいることに頭が混乱する。


 相葉が来たよりも江田はもうひとつのことに目がいっていた。

彼らが引き摺って持ってきたものの正体がその先輩たち本人だったからだ。


 片手に1人ずつ持っている。

4人の先輩をここまで運んできたのだ。


 乱暴ではあるが仰向けに寝かせられた先輩たちは意識はあれど痛みで身動きすらできない状態であるようだった。


 見るからに圭一と相葉どうよう顔にアザがあったり鼻血が流れた後がある。

明らかに喧嘩をしたあとだ。


 この状況をみれば彼らも圭一に返り討ちにあったのだろう。

挑んだ理由も明らかで自分に対する敵討ちだったことも容易に想像ができた。


 江田は圭一の方へと近づき対面に来たところで立ち止まった。

その顔は威嚇するでもなく悔しがるでもなく覚悟を決めたような顔にした。


「あとは任せてくれ」


 相葉のたった一言に圭一は驚いた。

こちらの思惑では復讐心に燃える江田に敵討ちにやってきた先輩を目の前で締めるというものだった。


 二度とやり返そうなんて考えられないように、江田の怪我よりもひどい傷をつけようとしていたのだ。

だから江田自らが手を引くだなんて全く考えていなかった。


 それから2人は相手の顔をしばらく見ていた。

もちろん和解はしていない。

だが敵対もしていない。


 2人の関係はいまも変わらなかったがより深いものになった気がした。


 圭一と江田は言葉を発することなく、相葉を連れて圭一はもと来た道を帰って行った。

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